2020.10.27 【ニューノーマル時代のCEATEC】〈2〉DXで大きく変わる教育や医療分野も変革 顧客争奪の「前哨戦」

 「新型コロナウイルス禍で全く新しいユースケースが生まれてきた」。ビデオ会議サービス「Zoom」を運営する米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズのエリック・ユアンCEO(最高経営責任者)は、国内最大級のIT・エレクトロニクス見本市「CEATEC 2020 ONLINE」に登壇し、こう強調した。

働き方で新潮流

 ズームは、コロナの感染拡大を機に訪れたニューノーマル(新しい日常)時代の最前線に立つ。熱い視線を注ぐ新潮流の一つが、デジタル技術で働き方を変革するデジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)の動き。ユアンCEOは「1週間に数日はオフィスで働き、数日は在宅勤務するというハイブリッドな働き方が重要になってくる」と力説した。

新しい働き方を実践する現場社員が登場した富士通の展示エリア

 働き方改革の分野で存在感を発揮した1社が富士通だ。国内グループ社員約8万人を対象に、テレワーク(在宅勤務)を基本とした働き方に全面的に移行。自社で培った経験や独自技術を生かして今月上旬、ニューノーマル時代の働き方をカルチャー改革まで踏み込んで支援するソリューション群を発表した。

 伊藤忠テクノソリューションズは、産業界の働き方を後押しする姿勢を訴求。現実の光景にデジタル情報を重ねて示すAR(拡張現実)などの技術を駆使して遠隔地から現場作業員をサポートするサービス「Atheer(アシアー)」を提案した。

教育にも新風

子どもが「ナビマ」を使用している様子(提供=凸版印刷)

 見本市は、ニューノーマル時代の教育を占う舞台にもなった。凸版印刷は、小中学校の学習を手助けするICTサービス「navima(ナビマ)」を来年4月に投入する計画を紹介。15年から提供する学習支援システムを土台に機能を拡充したもので、子どもが分からなかった問題を解説する動画やチャットボットといった「お助け機能」などを追加した。

 日本ユニシスの展示エリアで注目を集めたのが、AI(人工知能)で授業改善を支援する「授業アクティブ度把握システム」。授業に臨む子どもの姿勢や表情をビデオで撮影し、その映像をAIで分析するという。

 政府は昨年12月、児童・生徒に1人1台の学習端末や教育現場のネットワーク環境を整える「GIGAスクール構想」を打ち出した。コロナを機に構想の実現に向けた動きが前のめりになる中、出展各社の展開に熱い視線が集まった。

医療もデジタル化

 6年ぶりに出展した東芝は、精密医療分野でも気を吐いた。訴求したのが、生活習慣病の発症リスクを5年先まで可視化し低減するソリューションを提案できるAIだ。数十万人分のデータで学習したAIが体重と各疾患リスクの関係をシミュレーションする。来年4月のサービス開始を目指す。

 富士キメラ総研の調査結果によると、DXの国内市場(投資金額)は19年度に7912億円を記録。交通・運輸や金融を中心に市場は年々拡大し、30年度には19年度比3.8倍の3兆425億円に達する見通しだ。同社は、労働力不足やデジタル化の遅れを背景に業務プロセスの効率化が途上にある製造業や流通などの現状を概観。30年度に向けて幅広い業種で「業務変革のための投資が増加していく」との見方を示した。

 ユアンCEOは「顧客からフィードバックを得て信頼関係を構築しなければ持続可能なビジネスは不可能だ」と語った。初のオンライン開催となった見本市は、ニューノーマル時代に成長する次世代市場を見据えた顧客争奪戦の「前哨戦」となった。この出展を顧客との接点づくりや商機拡大にどこまで結びつけることができるのか。新時代の成長市場を切り開く出展各社の挑戦はこれからが本番だ。(つづく)