2021.01.08 【製造技術総合特集】MEMS産業の状況と今後の進展市場規模、25年に1.9兆円

産業、医療分野で需要増予測

 MEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械システム)とは、半導体製造技術やレーザー加工技術など各種の微細加工技術を応用し、微小な電気要素と機械要素を一つの基板上に組み込んだセンサー、アクチュエータなどのデバイス/システムのことである。

 MEMSはIoT(Internet of Things)社会を形成する上で、情報通信をはじめ、自動車、ロボットなどの多様な分野で小型・高精度で省エネルギー性に優れた人と機械をつなぐデバイスとして、多様な研究開発から製品化まで行われている。

 MEMS世界市場は、新型コロナウイルスの影響により20年の市場規模は前年比5.2%減の109億ドル(約1兆2000億円)にとどまるが、19年から25年にかけては年平均7/4%の伸びで、19年の115億ドルから25年には177億ドル(約1兆9000億円)へと拡大すると予測されている(Yole社市場予測)。

 新型コロナウイルスの影響は産業分野ごとに異なり、消費者の需要に左右される自動車や民生機器向け市場では需要に減退が生じ、サーマルイメージャやフローセンサーなどが強く求められている産業分野、医療分野などでは需要増が予測されている。需要減退の民生用MEMS分野に含まれるデバイスであるが、5Gの影響が大きいRF-MEMSは19年から25年にかけて年平均15.5%と今後も成長が期待されている。

 MEMS企業トップ30社の19年のMEMS売上げは102億ドルであるが、30社のうちに含まれる日本企業9社のシェアは18%と引き続き健闘している。

 17年にトップに躍り出たBroadcom社(米)は、RF-MEMS(BAWフィルタ)を含むスマートフォン市場の停滞で売上げはやや減少したが、次の5Gへの期待もあり、首位を維持している。2位のボッシュ(独)、3位のSTマイクロエレクトロニクス(スイス)は自動車関係の慣性・圧力センサーはほぼ横ばいだが、スマホ、スマートウオッチの向けのセンサーが増加傾向のため、昨年と同じく2位と3位を維持している。

「Society5.0」を推進

政府の動き

 現代社会の構造は、AIやビッグデータ、IoTなど、現実世界(フィジカル空間)とデジタルの世界(サイバー空間)を融合させる技術によって急激に変化している。政府はウィズコロナ、アフターコロナの時代においては、この動きが一層加速するものと考えており、持続的な経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会である「Society5.0」を実現するためにも、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させるシステムが重要であることを示している。

 加えてSDGs(Sustainable Development Goals)と連動する「Society5.0」の推進が掲げられており、SDGsアクションプラン2020では「Society5.0」を支えるICT分野の研究開発の推進やAI(人工知能)、ビッグデータなどの研究開発から社会実装までも求めている。

 なお、この「Society5.0」という概念は16年の第5期科学技術基本計画で示されたものであるが、20年春にも発表される第6期計画の中でも重要な位置付けを占めるようであり、「Society5.0」は、SDGsを目指すに当たり、デジタル化・データ連携・活用を核として、日本の価値観を盛り込むことで実現される知識集約型社会で、その工程が「Japan Model」と呼ぶべき、わが国の戦略・方向性というようなことが明らかにされている。

自立型時刻管理デバイスなど

マイクロマシンセンターの取組み

 そのような「Society5.0」とSDGsについての実現の方向性が議論される中で、マイクロマシンセンターでは、いくつかのプロジェクトの実施と、新たなプロジェクトの立案を目指し、「自立型時刻管理デバイス」の研究開発と「環境に優しいMEMSセンサ」の戦略立案を取り上げている。

 前者は、まさに高度なIoT社会を実現するのに不可欠な超高精度の時刻同期を可能にするためのデバイスであり、自動車の自動走行や移動通信の高度な時刻管理などの世界では欠くことのできないものと考えられる。後者は、SDGsで想定される強じんな国土と質の高いインフラや循環型社会、環境保全などを考えるときに不可欠な、環境に大量に設置されるセンサーシステムについて、それらを環境調和型にするための戦略を立案しようというものである。

 〈筆者=マイクロマシンセンター〉