2021.01.29 震災復興、水素エネルギーで後押し住友商事、福島県浪江町と協定

太陽光パネルが並ぶ福島水素エネルギー研究フィールド

 住友商事は、東日本大震災からの復興が進む福島県浪江町と水素の利活用などについて連携協定を結んだ。同町には20年3月に、世界最大級の水素製造施設が開設。水素エネルギーの国内拠点になると期待されており、同社も水素を軸とした街づくりなどで協力していく。

 同町は、11年3月の東日本大震災などで甚大な被害を受けた。道路などの復旧や生活インフラの復興は徐々に進んでいる。だが、町によると、震災前には約2万人強だった居住者は、現在でも1600人程度にとどまっている。

 町は20年3月、50年に二酸化炭素(CO₂)排出を実質ゼロにすることを目指す「ゼロカーボンシティ」を宣言した。同月には、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)や東北電力などが、再生可能エネルギーを用いた世界最大の水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド」を町内に開設。様々な実証や検証が動いている。

 一方、住友商事は、日産自動車と設立した合弁会社が18年、同町に工場を開所している。電気自動車(EV)の使用済みリチウムイオンバッテリの再利用に特化した国内初の工場だった。町産業振興課は「こうした縁が背景にあり、(住友商事と)今回の協定に至った」と説明する。

エネルギーシフト、町から発信

 協定による連携では、「世界が真似したくなるエネルギーシフトを、浪江町から」がコンセプト。化石エネルギーから、太陽光や風力発電といった再エネや水素などの利活用へと徐々に転換し、町の電源や熱源の脱炭素化を進めていく。水素など分散型クリーンエネルギーを活用した街づくりを浪江から始めて、「Fukushimaモデル」として世界に発信していく構想だ。

 具体的には、住友商事は、燃料電池技術による様々なモビリティに対応した「マルチ水素ステーション」を開設。乗用車やバス、トラック、重機などに燃料電池を広げていくことを視野に入れ、町と共同で事業化調査を進めていく。「ステーションを軸に、町のニーズに合わせて、家庭電源への展開のほか、農業、漁業などにも活用できないかと、幅広く検討していく」(住友商事広報部)という。

 また、協定では町の交流人口などの拡大についても連携が規定された。関連して町は今後、広く交流できる拠点整備を計画しており、設計段階から住友商事が参画する。同社は東京・大手町で、ビジネスや文化、芸術までジャンルの垣根を越えて交流できるオープンイノベーションラボを運営しており、そのノウハウを町に提供して街づくりなどに生かしてもらう。

 住友商事広報部は「町の復興を手助けしながら、水素を活用した当社の事業を並行させて進めたい」と話している。