2021.03.08 【中部産業特集】 成長見込める新規事業分野を開拓

トヨタ自動車開発の自動運転タクシー

トヨタ紡織開発の自動運転車トヨタ紡織開発の自動運転車

 中部の製造業は、主力の自動車が高水準の生産で推移し、工作機械の生産も回復し、ファインセラミックスの生産も増えている。この結果、コロナ禍でありながら生産は増加傾向を保つ。愛知県の有力企業は、自動運転車、燃料電池車、電気自動車(EV)など次世代自動車向けに大学やグループ企業、スタートアップ企業などと提携して独自の固有技術を生かした研究開発投資に注力し、数年後に成長が見込める新規事業分野の開拓に積極的に取り組んでいる。

 中部経済産業局が2月10日に発表した管内(愛知、岐阜、三重、石川、富山)の総合経済動向によると、輸送機械の生産は、乗用車と自動車部品が国内向け、海外向けともに高水準で推移している。金属工作機械は、国内向けが低水準となっているものの、海外向けに持ち直しの動きが目立つため、全体で回復の動きが見られる。

 電子部品・デバイスは、液晶素子がスマートフォン向けを中心に低水準で推移しているが、半導体がSSD(ソリッドステートドライブ)向けを中心に横ばいとなっているため、全体では横ばいを維持している。

 電気機械の生産は緩やかに持ち直している。開閉制御装置・機器が国内向け、海外向けともに緩やかに持ち直し、内燃機関電装品も、自動車向けを中心に緩やかに持ち直している。

 ファインセラミックスの生産は増加している。触媒担体・セラミックフィルタが自動車向けを中心に、国内向け、海外向けともに緩やかに持ち直しており、ガスセンサー素子も自動車向けを中心に国内外で増加している。

 設備投資は、製造業を中心に弱い動きが広がっている。電気機械と化学では増加する計画である。

 中部経済連合会が1-2月に会員企業241社に調査した中部圏の現状(1-3月期)と見通し(7-9月期まで)は、1-3月期の景況判断は、マイナス24.0と低水準ながら7-9月期から3期連続で改善した。

 景気判断の先行きは、新型コロナウイルスの感染再拡大に伴う2回目の緊急事態宣言など国内景気の冷え込みは避けられない状況だが、国内外のワクチン接種の拡大など明るい兆しも見え始めており、4-6月期以降の景況感は緩やかに改善するとみられている。

愛知県内有力企業、新技術製品開発へ積極投資

 愛知県内の有力企業は、先端技術の次世代分野の製品開発には積極的な設備投資を行っている。

 デンソーは、自動車向けのセンサーを開発する米国のスタートアップ企業「Aeva」と共同開発を行い、高度運転支援・自動運転の周辺検知を手がける周波数連続変調方式の次世代光センサー・LiDARの実用化を目指す。

 愛知製鋼は、東北大学と共同で、加速するEVの普及拡大と資源問題に貢献するDyフリーネオジム系異方性磁石粉末の高性能化に成功した。EV向け電動アクスル(車軸)のさらなる小型軽量化を実現できる。

 日本特殊陶業は、小牧工場(愛知県小牧市)内に建設中の新オフィス棟の完成を7月に予定している。新オフィス棟は、太陽光発電システムおよび森村SOFCテクノロジーが供給する固体酸化物形燃料電池を利用した発電システムを採用する。同社の変革・DXを推進する拠点として、センサーや半導体など新技術製品の開発に役立てる姿勢である。

ドコモ東海支社など地域課題解決型ローカル5Gなど実現へ遠隔診療・リハビリ指導の有効性を実証

 NTTデータ経営研究所、NTTドコモ東海支社、新城市民病院(愛知県新城市)、名古屋大学、新城市、ニプロ(大阪市北区)などの8社・機関は1-2月、総務省の「地域課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」の請負事業で、過疎地域における5Gを活用した遠隔診療・リハビリ指導の実証実験を実施した。

新城市民病院の遠隔診療モニター

 同実証実験は、5Gや4Kカメラを使用し、新城市の診療所や集会所と中核病院の医師をつなぐことにより、超音波画像検査(腹部エコー)などの遠隔診療や遠隔リハビリ指導を行った。

 その結果、5Gと4K映像を使用することで、腹部エコーやリハビリの映像で良好な解像度が得られ、映像伝送やデータ転送の遅延時間も許容範囲内であり、問題なく遠隔診療やリハビリ指導が可能となることを確認した。

5G対応移動基地局車

 新城市では、人口減少・過疎化・少子高齢化が進み、山間部などのへき地における通院困難者の増加や医療資源の負担増加など、深刻な地域課題を抱えている。

 独居世帯や老々介護世帯の増加により、診療・リハビリ指導で機能低下の発見が遅れた結果、ADL(日常生活動作)が低下し入院でのリハビリ介入が必要となるケースが増えている。地域交通インフラの不足により、診療・リハビリ指導を必要とする高齢住民の通院が困難となっている。

 こうした問題点を解決するには①高齢者の健康異常を早期に検知できること②物理的距離にかかわらず医療を提供できること③遠隔で健康指導・リハビリ指導を行うため、高解像度な映像・データを伝送できることが不可欠であり、高速大容量かつ高信頼性・低遅延の通信環境が望まれる。

 実証実験では、5Gを活用した映像伝送・遠隔診療支援のプラットフォーム、予防医療のためのスクリーニングシステムを構築し、地域課題の抜本的な解決に取り組んだ。