2021.03.24 【関西エレクトロニクス産業特集】「富岳」本格稼働 広範な利用に期待
R-CCSに設置されている「富岳」(写真提供=理化学研究所)
スパコン「京(けい)」の後継機種として2014年に開発が始まった「富岳」の学術・産業向けの利用が予定を前倒しして今月9日からスタートした。
富岳は20年の世界スパコンランキングでも4項目で性能1位となり、世界初となる同時4冠を達成。その評価は世界の関係者の間でも高い。
当初は21年度に供用開始の予定だったが、新型コロナウイルスの研究で広範な利用が必要なことから、稼働開始時期を早めた。
9日、富岳が設置されている神戸・ポートアイランド(神戸市中央区)の理化学研究所計算科学研究センター(R-CCS、松岡聡センター長)で本格稼働開始の式典がオンラインで行われた。
式典には富岳立ち上げに携わった関係者が多数出席したが、地元兵庫県の井戸敏三知事や神戸市の久元喜造市長もオンラインで喜びの声を寄せた。
富岳は最近、コロナ禍において室内におけるウイルスの飛沫(ひまつ)の拡散シミュレーションなどへの活用がテレビなどで紹介され、国内での認知度を高めている。
今後は気象災害の予測や新薬の開発、各種材料の分析など、学術以外に産業分野での活用が期待される。
富岳は理研と富士通の共同開発で、製造は富士通が担当した。開発費は約1300億円、このうち国費として1100億円が投入された。
19年12月、石川県かほく市の製造元である富士通ITプロダクツの工場から神戸市のR-CCSに第1陣6筐体(ラック)が搬入され、20年5月には全432ラックの搬入が完了した。
19年8月30日に稼働を停止した京も、理研と富士通の共同開発。しかしR-CCSによると、装置の心臓部ともいえるCPUの数は富岳が15万8976個、京は8万8128個。
CPUは「Arm8.2-A SVE」コアをベースにした富士通開発の「A64FX」を採用している。
R-CCSに設置の富岳は全部で432ラックだが、384個搭載が396ラック、半分の192個のCPU搭載が36ラックあるため、総数で15万8976個搭載という計算になる。
速度は「京」の100倍
計算速度は富岳が京の100倍とされるが、松岡センター長は富岳1ラックの性能はスマートフォン2千万台分に相当すると語る。富岳10ラック分が京の864ラックとほぼ同等の計算性能でもある。
富岳は主に、国のプロジェクト「ソサエティ5.0」実現に向け利用される。しかし式典で、理研の松本紘理事長は産業界を含めた広い利用を呼びかけた。
記念フォーラム開催
式典の後、記念フォーラムが行われ、大学や企業の研究者が富岳の活用についてオンラインで講演した。
理化学研究所の杉田有治主任研究員は「新型コロナウイルス表面のタンパク質動的構造予測」のテーマで、東京大学生産技術研究所の加藤千幸センター長は、富岳の時代におけるモノづくりについてシミュレーションを使って紹介。
次いで東京大学大気海洋研究所の佐藤正樹教授は、防災・減災研究の立場から富岳の活用による予測研究を解説した。
化学分野から富士フイルム解析技術センターの奥野幸洋主席研究員は、全固体リチウムイオン電池の界面設計の研究成果を述べた。
富岳は自動車開発にも利用されるが、日本自動車工業会総合政策委員会ICT部会の松原大CAEタスクリーダーは、車両開発の立場から富岳をどう利用するかを説明した。
学界や産業界から出席したパネルディスカッションも行われ、HPCIコンソーシアムの朴泰祐理事長がモデレータを務めた。