2021.03.29 【クラウドサービス特集】DX推進などで利用に拍車
インターネット経由で様々なICT(情報通信技術)を利用できるようにするクラウドサービスは、企業の運営に欠かせなくなってきている。世界で猛威を振るう新型コロナウイルス感染拡大によるテレワークの浸透も、クラウドの利用に拍車をかける。今、多くの企業で検討が進む人工知能(AI)やIoTといった最新デジタル技術を使って付加価値を生み出すデジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)への取り組みにも、クラウドは不可欠だ。情報システムのインフラになりつつあるクラウドサービスの今を追う。
クラウドの利用はこの数年でもう一段加速している。これまでは、システムを導入する際にまずはクラウドの導入を優先し検討する「クラウドファースト」が叫ばれてきたが、最近はシステムを導入構築する際にクラウドの利用を大前提に、クラウドを基盤に各種業務システムの構築をしていく「クラウドネイティブ」が主流になりつつある。
ここまでクラウドの利用が一般的になったのは、サービス品質が上がり安定運用できるようになってきたことも大きい。クラウドサービスは、社内ではなくサーバーなどを外部のデータセンターに置き運用する。特に海外のクラウドサービス企業は世界各地にデータセンターを設置し運用しているため、これまで日本の企業は海外にシステムを置いたり、データが海外に置かれたりすることに抵抗感を示しているところが多かった。
不安感がなくなる
それがこの10年で流れは大きく変わり、クラウド基盤サービス「AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)」を展開するアマゾンをはじめ、「アジュール」を展開するマイクロソフトも国内にデータセンターを設置。首都圏だけでなく関西にも展開して運用の安定化にも努める。日本IBMも国内にデータセンターを設置する。19年にはグーグルも千葉県印西市に日本初のデータセンターを建設する用地を購入している。SAPやオラクルといった業務システム大手ベンダーも国内にデータセンターを開設しており、今や「海外ベンダーのサービスは不安」ということがなくなっているのも利用のハードルを下げている。
国内の主要情報サービス企業は、従来は国産のクラウドサービスとして安定運用と安全性などを訴求してきたが、この数年の海外勢の台頭もあり、海外ベンダーのクラウドサービスを効果的に使う戦略に切り替えてきている。
情報サービス各社の多くは、AWSやアジュールなどを基盤としたクラウドサービスの展開を本格化。自社で開発してきたソフトウエアを、AWSなどの基盤上に乗せてサービス化する動きが出ているほか、ユーザー企業の基幹システムをはじめとした情報システムを、クラウド基盤に移行する支援メニューを用意するところも多い。
昨今のDXへの取り組みもクラウドの利用拡大を後押ししている。業務をデジタル化していく目的は、市場環境の変化へ柔軟に対応し、付加価値を出していくことだ。これを実現するには素早いシステム構築が必要になる。
これまでの社内構築型のシステムでは、サーバーやネットワークなどのハードの設置から進める必要があり柔軟性に欠ける。さらにシステム開発のスピードを上げていくためにも小さく開発し、横展開するサイクルを短くする必要がある。スピードと柔軟性が必要となるDX関連のシステムにはクラウドの利用が欠かせないわけだ。
コロナ禍で不可欠
加えて、コロナ禍でのテレワークでは働く場所がオフィスの外になるため、必然的にクラウドを利用せざるを得なくなる。ビデオ通話や勤怠管理などの仕組みの大半が、クラウドサービスで提供されていることをみても明らかだろう。
クラウド関連の市場も拡大が続く。IDC Japanの国内パブリッククラウド市場予測によると、20年の規模は前年同期比19.5%増の1兆654億円だった。さらに20-25年の年間平均成長率(CAGR)は19.4%で推移し、25年の市場規模は20年比2.4倍の2兆5866億円になる見通しだ。IDCではコロナ禍でクラウドの導入が加速しているとみる。
電波新聞社が主要ソリューションプロバイダに行ったアンケートでも、21年に伸びる分野は前回調査から同様に「クラウド」「AI(人工知能)」「セキュリティ」が上位3位を占めた。
クラウド化の流れが加速することは間違いないが、クラウドの利用には注意も必要だ。クラウドは常に最新の機能が利用できるといった利点も多い半面、導入規模や頻度によっては費用対効果が出ない場合もある。利用するクラウドサービスによっては一度使ってしまうと、システム更新や移行で苦労する場合もある。コストもクラウドのほうが高額になるため、利用環境に応じて精査する必要がある。
【クラウドサービスとは】
クラウドサービスは、サーバーやストレージ(外部記憶装置)、ネットワークなどのICTインフラや業務ソフトをインターネット経由で使えるようにするサービスのこと。サービスはデータセンターに構築した環境で運用しており、企業内でICTの資産を持たずに運用できる。
クラウドの種類にはアプリケーションソフトをサービスとして利用するSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)やICT基盤を利用するIaaS(インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス)、特定のアプリケーションサービスをすぐに利用できるようにする基盤となるPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)などがある。
クラウドの提供形態は、アマゾンやグーグル、セールスフォース・ドットコム、マイクロソフトなどのサービスのようにベンダー側のサービスを複数企業が共同利用する「パブリッククラウド」と、自社専用のシステムをデータセンター内に構築しシステムを利用する「プライベートクラウド」に分けられる。いずれもメリットとデメリットがあり、どのようなシステム環境で利用していくか、セキュリティやサービスレベルなどに応じて選択するサービスは変わってくる。最近はパブリッククラウドとプライベートクラウド、さらには自社内構築型システム(オンプレミス)を組み合わせたハイブリッド型のクラウド環境を構築するのが一般的だ。