2021.04.09 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<37>企業ネットワークをローカル5Gに移行する ⑥

 戦国時代の築城は、選地・縄張・普請・作事の4工程に分けられていたという。

 「選地」は戦略や権力の象徴など目的に合った土地を選定し、城の範囲を決める工程。「縄張」は本丸や二の丸など城内を区画し、どこに何を配置するのか決める工程。「普請」は堀や土塁、石垣などを築く工程。「作事」は天守など建物を築く工程だ。

 企業の自営網を構築する工程は、この築城の工程とよく似ている。まず、「選地」は、業務目的に合った周波数を選定し、自社の土地や建物内で電波を利用する業務区域(サービスエリア)を決めることになる。

 次の「縄張」では、サービスするエリアの広さや形状によって複数の基地局ごとに電波が行き届くカバーエリアを区画し、アンテナの設置場所を決めていく。いわゆる「置局設計」と呼ばれる工程だ。

 その次の「普請」に当たる堀や土塁、石垣の構築が、自営網における電波の遮蔽(しゃへい)や防御になる。近隣との干渉調整区域における電波干渉や漏えい、盗聴の対策など「セキュリティー設計」を含む工程は極めて重要になるだろう。

SIM方式で安心

 この部分は、ローカル5Gでは無線局免許が必要で、干渉調整を十分実施した後に開局することから、免許が不要なWi-Fiに比べて電波干渉や漏えいの不安はない。加えて、ローカル5Gは端末のユーザー認証と通信の暗号化にキャリアグレードの強固なSIM方式を使うので安全だ。前回述べたLTEコア網を利用する「NSAシステム構成」も、SIM方式を使うので安心だ。

 従って、既存のネットワーク網を活用したローカル5Gの導入を考えた場合、「作事」に当たる構築のシーンでは、病院や工場などの全エリアにsXGPアクセス網を構築し、4K/8K映像やVR/ARを活用する手術室、作業エリアなど一部のスポットエリアのみに超高速5Gアクセス網を構築すれば、自営PHSからスムーズにNSAシステム構成のローカル5Gへ移行できるはずだ。オフィスの場合なら、プレゼンルームや会議室などに限定して超高速環境を構築する場合に適用できるだろう。

 一方、電波干渉や漏えいのリスクに加え、帯域不足が課題となっているオフィスのWi-Fiから、ローカル5Gへの移行はうまくいくのだろうか?

 オンライン会議が日常化している昨今、オフィスでは全従業員が自席やフリースペースを含む全エリアで4K/8KやVR/ARを活用できる超高速環境が必要となってくる。

 その場合、5Gの能力を最大限に発揮できる5Gコア網を利用する「SAシステム構成」が最強の城となるのは間違いない。ただ、現状ではローカル5Gに対応したコア網の機器や端末がまだ少なく高価なため、独自仕様を犠牲にしたクラウド型の5Gコアの利用や、通信事業者などのローカル5Gサービスの利用を検討するケースもあると聞く。電波干渉リスクの低いエリアに限定したWi-Fi6へ移行するケースもあるだろう。

企業ネットワーク多様なローカル5Gへ移行

移行が望ましい

 こうした背景から、企業ネットワークは多様性を持たせながらも確実にローカル5Gへ移行するのが望ましいと筆者は考えている。(つづく)

〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問・国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉