2021.04.13 水インフラのない場所での水利用の実現へWOTA・市橋正太郎執行役員CCOに聞く
市橋 執行役員CCO
WOTA(ウォータ、東京都豊島区、前田瑶介社長)は、自律分散型水循環システム「WOTA BOX(ウォータ ボックス)」や水循環型ポータブル手洗い機「WOSH(ウォッシュ)」などを製品化しているスタートアップ企業だ。水インフラのない場所での水利用の実現を目指しており、その技術にはコロナ禍でも注目が集まっている。市橋正太郎執行役員CCO(チーフコミュニティオフィサー)に話を聞いた。
-水の循環利用という独自技術で差別化を図っていますね。
市橋CCO 当社は、東京大学で水処理研究に携わってきたスペシャリストが集まり、14年に設立した会社だ。18年の西日本豪雨で、被害に遭われた方々が断水で困っているのを見て、当社の技術が使えるのではないかと思い、試作機を現地に持っていき入浴に使ってもらったのが、WOTA BOXだ。そこから災害用キットを作成して展開していった。
-手洗いスタンドとして利用できるWOSHも製品化しました。
市橋CCO 避難所の衛生環境を考えると、手洗いができる製品が必要ではないかと思い開発した。20年はコロナ禍で手洗いや除菌といったことがキーとなり、製品化を推し進める契機にもなった。もっと汎用的に使える製品を目指した。
-水処理でカギを握る技術は。
市橋CCO 水処理に関わるセンサーが肝だ。水処理には多くのセンサーを使うが、通常、そうしたセンサーは価格が高い。それを独自開発することで、10分の1から100分の1の価格に抑えることに成功した。例えば、通常の水処理用センサーを使ってWOSHを製品化すると価格は数百万円かかってしまうが、それを数十万円レベルに抑えられている。
センサーを多く搭載していると、それだけデータのタッチポイントが増える。人工知能(AI)も搭載しているため、センサーから得たデータをクラウドにためて分析することもできる。
-それほどの低価格でセンサーを開発できた理由は。
市橋CCO 水処理の専門家が立ち上げメンバーであったことに加え、日本を代表するメーカーから当社に移ってきた社員も多い。NASA(アメリカ航空宇宙局)で研究開発に従事していた社員もいる。技術者は全体の6~7割で、課題に向き合い、これからの未来を作っていくという思いを持った社員が集まっているから実現できた。
-競合はいないのでしょうか。
「水処理の民主化」推進
市橋CCO 大規模な水処理を行う企業はいるが、競合はしない。当社は小規模な水処理に軸足を置いており、個人が手の届く価格で提供することを目指している。普段の生活で使えるレベルにし、「水処理の民主化」を進めたい。
「水処理の民主化」は、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)の観点からも、環境に負荷をかけない取り組みとしても重要。普及させるためにも、家電のように、WOSHは20万円を切る価格まで下げることを目指す。
-水の循環利用という考えが、一般的にはさほど浸透していないようにも感じます。
市橋CCO 水が使えなくなることに対する危機感が不足していると感じる。東日本大震災のように水インフラが使えなくなった時、どうするべきか。例えば東京では、水が使えなくなった際に神田川の水を使うかと言えば、そうした発想すら出てこないだろう。せっかく近くに水があるのに使えないのであれば意味がない。
現在の水インフラは中央集中型であり、当社が提案するような自律分散型の理解を深めていくことがこれからは必要になる。それには価格も重要な要素だ。
-海外展開も狙っていきますか。
市橋CCO 今年中にはアメリカで製品を発売する計画だ。その後もアフリカやインドなど水インフラが十分に整っていない国をターゲットに展開していく。
2050年までに、世界の半数の国や地域が水問題に直面するとも言われている。水がないというよりも、あっても汚れているから使えないというのが実情。そうした水問題を解決し、水不足をなくすことが、当社が目指していることだ。