2021.04.16 カーボンニュートラルなバイオ燃料、じわり広がりミドリムシ由来、ベンチャーのユーグレナ
バイオ燃料の原料となる微小なミドリムシ
バイオベンチャー、ユーグレナ(東京都港区)が開発した次世代バイオ燃料が、じわりと広がりを見せる。藻の一種の微生物などを原料としたもので、成長時に二酸化炭素(CO₂)を吸収しているため、「カーボンニュートラル」な燃料とされる。バスなどの事業者を中心に供給が始まり、一般消費者への提供も視野に入ってきた。
4月中旬、東京都葛飾区の給油所で販売されたのが、次世代バイオ燃料「ユーグレナバイオディーゼル燃料」だ。一般の消費者向けに初めて提供し、3日間限定で試験的に販売した。同社は「各地から給油に集まり、想定以上に消費者の関心が高かった」と驚く。
同社のバイオ燃料は、光合成をする微細藻類として知られるミドリムシから抽出した油脂と、家庭などから出る使用済みの食用油を原料にする。燃焼時にCO₂が出るが、原料のミドリムシが成長段階で光合成を行ってCO₂を吸収しているため、排出分が相殺されたとみなせるという。
ミドリムシを使ったサプリメントなどの健康食品を製造、販売していたユーグレナが2005年に世界で初めて沖縄県石垣島で、ミドリムシを食品用として屋外で大量培養する技術を確立した。20年3月にバイオ燃料を完成させ、提供を開始。現在、横浜市鶴見区の実証プラントでバイオ燃料の製造を続ける。
今回、販売したのは、バイオディーゼル燃料(1リットル116円)と、バイオハイオク燃料(同151円)。既存のディーゼルエンジンなどに、そのまま使えて走行できる。
だが、あくまでもテスト販売。本格的に一般向けに販売するには、コスト面や供給量などに課題が残っている。実証プラントで製造できるのは年間125キロリットルだけで、まだ少量にとどまる。また、今回は市販のガソリンなどと同じ価格帯で提供したが、実際のバイオ燃料はまだ製造段階で割高になっているという。
こうした課題を見据え、同社は25年までに、現状の2000倍の規模に相当する年産25万キロリットルの商用プラントを完成させるため、今年中に国内外で建設地を選定する計画だ。
循環型の取り組みも
一方で、ユーグレナのバイオ燃料は既に、事業者向けとしては利用が始まっている。20年3月以降、バスや配送車、フェリー、タグボートなどに提供を拡大。高知県や東京都内などの路線バスにも導入され、これまで全国の船舶会社やバス会社など計20社超の企業などに商業用として供給してきた。
その一つが、家庭用食用油などを手掛ける日清オイリオグループ(東京都中央区)だ。21年1月から、同社の事業所、横浜磯子事業場(横浜市磯子区)に防災用として常駐する消防車に供給を始めた。ユーグレナのバイオ燃料が消防車に提供されるのは初めてだ。
製造される食用油は、バイオ燃料の原料の一部にもなる。そのため、同事業場内にあり、製品の研究開発を担う技術開発センターで、配合を試したり、試作したりして生じた廃油を、ユーグレナのバイオ燃料の一部として再利用する取り組みも始めた。日清オイリオグループ広報課は「循環型の考え方を具体化した取り組みだ。今後、カーボンニュートラルに向けた社会を目指すうえで、共感できる」と話す。
ユーグレナは今年3月に、上空で凍らないバイオジェット燃料も完成させて公表した。年内にも航空会社などに供給し、飛行を実現させる予定だ。
同社コーポレートコミュニケーション課は「パートナー企業と協力し、30年までに年産100万キロリットルを目指す。バイオ燃料を産業として確立していきたい」と話している。