2021.07.05 【この一冊】 「読書をする子は〇〇がすごい」榎本博明 著(日経BP、日本経済新聞出版本部)
AIの時代。子どもたちの学力の二極化が言われて久しい。中学生の約半数が教科書の内容を読み取れないという研究もある。著者の周りでも困った学生が増えているという。
問題は子どもや学生ばかりではない。大人社会でも、当たり前のはずの理屈が通じない相手との意思疎通に困る場面は少なくない、と著者はいう。
こうしたすれ違いの背景に、広義の「読解力」の不足を著者は指摘する。文章や相手の態度などを読み解く読解力が欠けていると、さまざまな問題につながるというわけだ。
そこで著者が改めて提起するのは、読書の効用。大人世代として、子どもたちが語彙(ごい)力を身に付け豊かな人生を送れるよう、読書に導くことが重要と訴える。
語彙といっても、日常会話で身に付く生活言語と、読書などの学びを通じて身に付く学習言語とは別物、とも指摘する。
大人世代としても、うなずくとともに、職場や家庭を省みて、身につまされる面もありそうだ。
榎本氏は、MP人間科学研究所代表、心理学博士。東大教育心理学科卒。東芝で市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学助教授等を経て、現職。
学生向けの教育だけではなく、企業の人材育成にも関わっており、実践的な研究・提起に定評がある。評者が以前、取材した際も、データやファクトを冷静に踏まえつつ、情熱的に論を説く姿勢が印象的だった。
著者には、同じシリーズで「伸びる子どもは〇〇がすごい」の著書もある。こちらは非認知能力、つまり、学力以外のコミュニケーション能力、レジリエンスなどの大事さを指摘する。併せて読むとなお興味深い。
日経BP、日本経済新聞出版本部。208ページ。990円(税込み)。