2026.01.03 【放送総合特集】AI活用で効率化・省人化進む 映像コンテンツ市場、成長軌道へ
昨年11月のInter BEE2025は多くの来場者が詰めかけ関心の高さをうかがわせた=幕張メッセ(千葉市美浜区)
国内の放送業界は、デジタル化やインターネットの普及により映像コンテンツの市場規模全体の拡大が予測される。ストリーミングサービスの台頭や多様化する視聴者のニーズに柔軟に対応できる革新的なビジネスモデルを求め、新しい技術革新や活用が急速に加速している。一方で、地方局を中心に少子高齢化など映像制作現場の人手不足といった社会共通の課題への対応は放送業界でも急務となっている。メーカー企業はクラウドや人工知能(AI)などを活用し、業務の効率化や省人化に向けた取り組みを急ぐ。また、AIを使用して視聴者の視聴履歴や好みを分析し、視聴者に適した広告を提供するなど、広告効果の最大化につなげる技術も進展している。
世界市場で存在感、課題は成長率
総務省が2025年に公表した検討資料「放送・配信コンテンツ産業を取り巻く現状と課題」によると、世界のコンテンツ市場規模の推移は日本が第3位で、2022年の市場規模は13兆1000億円。第2位の中国とは2.5倍の差となった。各国のコンテンツ市場では中国や英国、米国などが高い市場成長率が見込まれている一方、日本のコンテンツ市場の成長率は低調と予測されている。

日本のテレビ放送の収益も減少傾向になっている。電通が毎年発表している「日本の広告費」をみると、テレビ広告の売上高は、16年の1兆9657億円から減少し続けている。20年はコロナ禍の影響で1兆6559億円に縮小した。21年には1兆8393億円まで回復したが、下落傾向は変わらなかった。市場縮小の要因は、スポンサー企業がインターネット広告に流れたことが大きい。
広告構造の変化、テレビからネットへ
スマートフォンの普及や通信速度の高速化といった技術発展や、動画配信サイトの視聴者層拡大が追い風となり、20年にはインターネットの利用時間がテレビの視聴時間を上回った。スポンサー企業のターゲット層とテレビ視聴者層の違いも指摘され、19年にはインターネット広告の売り上げがテレビ広告を上回った。23年には地上波テレビ広告との差がさらに拡大。放送の市場規模は微減の傾向にあり、ピーク時の2007年の約4.1兆円から約3.6兆円まで落ち込んだ。
制作現場で進む省人化、AI・IP化がカギ
一方で、多くの視聴者が、ストリーミングサービスやオンデマンドコンテンツなどに移行しているため、映像コンテンツの市場規模全体として拡大が予測される。日本テレビは、コンテンツIP(知的財産)の価値最大化やグローバル展開などに向けて、新たにコンテンツ戦略本部を設立した。25年2月には、海外ビジネス拡大戦略の基本方針を発表。海外向けコンテンツ制作スタジオの新規設立などが盛り込まれた。
こうした市場環境の変化の中、 少子高齢化などに伴い、映像制作現場でも人手不足によるさまざまな課題が浮上。メーカー企業は業務の効率化に向けた取り組みを加速させている。
映像制作のワークフロー全体での効率化やコスト削減などを目指し、IP (インターネットプロトコル)化をはじめ、リモートプロダクションとリソースシェア、クラウド、AIなどの技術を活用し、業務の省人化・省力化を可能にするソリューションが提案されている。特に、AIの導入はDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するツールとして、ますます重要性が増している。
Inter BEE、現場支える技術集結
人手不足の影響を大きく受けているのが地方局だ。人口減少と広告減を受け、単独での存続危機に陥っている局も出てきている。2025年11月に幕張メッセ(千葉市美浜区)で行われた日本最大級のメディア総合展示会「Inter BEE2025」でも人手不足解消を支援するプラットフォームが数多く紹介された。
パナソニックコネクトは「フルクラウド化による新たな映像制作モデルの提案」と「IP化・自動化による業務効率化と映像表現手法の拡充を実現する製品」を紹介した。報道スタジオサブのフルクラウド化を紹介するステージやライブ映像制作プラットフォーム「KAIROS(ケイロス)」、カメラシステム、プラグインなどを展示した。
池上通信機は、トータルシステムソリューション「ignis」を中心に、カメラシステムや伝送ソリューションなどを披露した。システム構築から設定、運用、操作までを支援する。Media over IP(MoIP)システムとSDIベースバンドも含めたハイブリッドシステムに対応するソフトウエアプラットフォームを展示した。
キヤノンは、シネマカメラや放送用ズームレンズなどの映像制作機器、屋内型の映像制作用リモートカメラシステムなどを用意。拡大や縮小などの遠隔操作できる監視カメラ「PTZカメラ」では、メインカメラの動きに連動して複数のリモートカメラを制御するリモートカメラソリューション「マルチカメラオーケストレーション」なども参考出展した。
放送と配信の垣根が低くなる中、映像産業は新たな成長局面を迎えつつある。技術革新をいかに現場力と結び付け、持続可能な制作・流通モデルを構築できるかが、今後の競争力を左右することになりそうだ。
ケーブルテレビ、三つの優位性を提供 普及率は約52%
ケーブルテレビ(CATV)事業者は、地域社会を支えるプラットフォーマーとして、最新のデジタル技術を使って地域課題の解決や地域活性化に積極的に貢献している。2024年度末時点で全国の加入世帯は約3188万に達し、普及率は約52%と半数を超えた。地域情報メディアとしての存在感を一段と高めている。
CATVは、地域密着事業という「地域性」、臨機応変な対応が可能な「機動性」、放送・通信、有線・無線の全てを事業領域とし、さらにインフラからコンテンツまでの「垂直的総合性」という三つの優位性を持つ。これらの特長を最大化するため、これまでの有線サービスに加えてMVNO(仮想移動体通信事業者)やWi-Fi、高速通信規格5Gをエリア限定で使うローカル5Gなどの無線技術を活用したサービスの提供も広がりを見せている。
日本ケーブルテレビ連盟は、2021年に策定した業界指針「2030ケーブルビジョン」に最新動向を反映して25年6月に改訂。人工知能(AI)の進展や事業環境の変化に対応する新たな方針を盛り込んだ。テクノロジーロードマップでは生成AIや大規模言語モデル(LLM)に関する項目を拡充し、AIシステムへの攻撃対策やAIセーフティーの観点を新たに加えた。
現実のモノやシステムなどをデジタル空間上に再現する「デジタルツイン」などのAI活用がクラウド上で増加することを見込み、5Gの次世代規格であるBeyond 5G/6Gに対応した広帯域・低遅延ネットワークの必要性を示している。
CATVの技術開発を支えるシンクタンクとして活動する日本ケーブルラボは、重点分野を「AI&オールIP」「有線」「無線」「サービス品質」「新サービス」と定め、RAG(Retrieval-Augmented Generation、検索拡張生成)環境を構築して生成AIの概念実証(PoC)を実施。技術文献の検索や要約などを自動化することで、業務の高度化と効率化を進めている。
通信インフラ面では、1Gbpsに加え将来の10Gbps通信に対応するため、FTTH(Fiber to the Home)の導入が加速している。CATVのサービスは放送だけでなく、通信サービスや無線サービスなども提供している。地域のインフラではなく、プラットフォーマーとしての役割を果たすようになっているため、より多様なサービスが提供可能なFTTH方式への高度化が加速している。
モバイル端末普及で競争環境変化
移動体通信技術の進展により、通信速度の高度化やスマートフォンやタブレットなどのモバイル端末の普及は、CATVを取り巻く競争環境を大きく変化させた。中長期的な経済成長のために、IoTやビッグデータ、AIなどの技術革新を積極的に取り入れ、少子高齢化や労働力不足といった社会課題を解決する「Society 5.0」の実現に向けた取り組みが進んでいる。
2025年7月に東京国際フォーラム(東京都千代田区)で行われたCATVの総合イベント「ケーブルコンベンション2025」では、全国各地の自治体で進められているデジタルトランスフォーメーション(DX)による地域防災や地方創生活動の先進事例ローカル5G、AI予測による防災・減災、事業継続計画(BCP)ソリューションなどが並んだ。同時開催のオンライン展示会では、生成AIが来場者とのAIチャットボットを介して会話し、来場者の持つ多様な課題を解決するソリューション、サービスを持つ出展社を提案する取り組みを展開。これまでのキーワード検索では成し得なかった高精度なビジネスマッチングを提供した。

番組アワードの関連イベントに「今、何を創り、どのように発信すべきか?」をテーマとするシンポジウムを開催。制作者やCATV従事者、経営者が参加する場で、ケーブル業界のコンテンツが向かうべき方向性を話し合った。
同時開催の「ケーブル技術ショー2025」では、地域DXや地域共創の推進へ向けた強い思いを込めた展示が展開された。CATV業界の技術革新とビジネス拡大に必須の「モノからコト、そしてヒト」との出会いを提供。ケーブルテレビが持つ無限の可能性を追求し、新たなイノベーションと発展の場として最新の技術やソリューション、サービスを紹介。地域課題に応える実践的なサービスを通じたケーブルテレビの可能性が発信された。








