2021.08.13 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<53>ドイツに見るデジタル化と5G化のヒント⑤
ビジネス環境変化の荒波の中、ドイツは「インダストリー4.0(第四次産業革命)」を掲げ、デジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)船団をけん引しているといってもよいだろう。この第四次産業革命は、デジタル技術を利用して新たな資源である〝データ〟から新たな価値である〝ビジネス変革〟を成し遂げるものだ。
では、このビジネス変革を「誰」がやるのか。デジタル技術に長けたITベンダーやSIヤーは変革の支援をするが、彼ら自身が顧客のビジネス変革をやるわけではない。変革するのは当然個々のビジネスの主体者である企業になるだろう。
あらゆる産業の中にさまざまな業種の企業があり、それぞれの企業が日々、膨大なデータを生み出している。そのデータのうち、どれが、どのように個々のビジネス課題を解決するのに役立つかは、ビジネスの現場にいる人でないと分からないはずだ。
一般的にDXは、業界団体を含む企業自らがデータを収集・分析し、自らでビジネス変革していくことが基本。それゆえに難しさもあるわけだ。では具体的にどのように進めていけばよいのだろうか--。
筆者は、ビジネス変革のトリガーとなるのは「危機感」ではないかと考えている。
例えば、ドイツの製造業を支えるミッテルシュタント(中小企業)はコロナ禍以前、好景気だったこともあり、本業のものづくりに集中していた。もちろんセキュリティーとプライバシーに敏感な国民性もあってデジタル化の重要性は認識していたものの、後回しにしていたようだ。
ところが、コロナ禍によって起きたサプライチェーンの混乱と寸断を機に、彼らはデジタルプラットフォームを利用したサプライチェーン管理などに本気になって取り組もうとしているらしい。これは日本も同じような状況ではないだろうか。
そしてもう一つ、デジタル化の成否を分けるものとして、現場とクラウドをつなぐ通信回線の容量「通信帯域」がある。前回も述べたように、ドイツのブロードバンドは普及しているが、大半が〝高速〟なメタル回線であり、〝超高速〟な光回線ではない。
インダストリー4.0が発表された当時は、まだそれでもよかったのだろうが、この10年間で多量のデータを使い新しい知見を見いだす深層学習(ディープラーニング)をはじめ、各種クラウドサービスの台頭も相まって、データ処理に必要な通信帯域は飛躍的に増加している。
光インフラの整備
無線回線はローカル5Gの基地局など、5G機器を導入すれば超高速化できるが、その先の有線回線が高速でなければ、本当の意味でのデータ活用はできない。つまりドイツでインダストリー4.0を実現するには、光インフラの整備を待つしかないのだ。
さて、これらドイツの事情をヒントにして、視点を日本へ戻そう。デジタル化に当たって、われわれの優位性の一つは、既に整備されている光回線を利用できることだ。特に、IoTと人工知能(AI)によるデータ活用促進のため、ローカル5G導入によるネットワークの無線化と超高速化を図ることだと思う。
そして、ドイツにあって日本にないもの、それは「プラットフォーム インダストリー4.0」に見る、共通課題の下でデジタル化を強力に推進するためのプラットフォームかもしれない。(つづく)
〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉