2021.09.17 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<57>5Gによるダイナミック・ケイパビリティー①

 9月1日、国内で新型コロナウイルスの感染が確認された人の数が累計で150万人を超えた。

 一般的に、生物の増殖はロジスティック曲線に従うと言われている。ある時点から加速度的に増加し、飽和状態に近づくと増加率が減少し、飽和点に漸近(ぜんきん)的に近づく曲線のことをいう。

 残念ながら感染者数は、この曲線のとおり100万人を超えた時点から加速度的に増加し、わずか26日間で150万人となったわけだ。まさに今、われわれはコロナ禍という急激な環境の変化による「逆境」の真っただ中にいると言っても過言ではないだろう。

二つの「逆境」

 渋沢栄一の主著「論語と算盤(そろばん)」の中に「処世と信条」という章があり、くしくも「逆境」について述べられている。それによると、逆境には「自然的な逆境」と「人為的な逆境」があり、前者の場合には「自分が出来る精一杯のことをやって、あとは天命に任せくじけず勉強しなさい」とある。片や人為的な逆境の場合には、「自分を省みて悪い点を改めなさい」とある。

 今回のコロナ禍は、もちろん自然的な逆境に当たるだろう。ただ、濃厚接触を避けられない三密な環境が残る従来のビジネス環境を、強いて人為的な逆境として省みるならば、コロナ禍を〝経営資源を再構成しニューノーマル(新しい日常)なビジネス環境へと移行する良い機会〟と捉えることもできるだろう。

 この急激な環境の変化に対応するために、組織内外の経営資源を再構成する能力は、実はコロナ禍以前から話題となっていた。

ダイナミック・ケイパビリティー

 それは「ダイナミック・ケイパビリティー」と呼ばれる理論で、カリフォルニア大学のビジネススクール教授デビッド・J・ティースによって提唱された。オープンイノベーションを提唱した経営学者のヘンリー・チェスブロウ氏の師と言ったほうがピンとくるかも知れない。

 ハーバード・ビジネス・レビューによれば、経営戦略論の流れは現在、自社固有の経営資源を活用して競争優位性を確立する「資源ベース理論」から、他社の資産をも巻き込んで自社資源とともにオーケストラのように構成していく「ダイナミック・ケイパビリティー論」へと移り、主流になっているという。

三つの能力で構成

 ダイナミック・ケイパビリティーは、①脅威・機会を感知する能力(センシング能力)②機会を捉えて経営資源を再構成し、競争優位を獲得する能力(シージング能力)③競争優位性を持続可能なものにするため、組織全体を変容させる能力(トランスフォーミング能力)の三つの能力で構成される。

 ところが、特に②から③に至っては、簡単ではないどころか至難の業だ。そこで登場したのが、IoTや人工知能(AI)、第5世代移動通信規格5Gのデジタル技術を活用してビジネスを変革する「DX(デジタルトランスフォーメーション)」ということになる。

 今後、ダイナミック・ケイパビリティーは大きな波となって製造業をはじめOT(運用技術)分野への5G導入を加速させる可能性が出てきている。(つづく)

 〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉