2022.01.12 【計測器総合特集】光スペクトル測定最前線光学デバイスや光学部品の研究・開発などに不可欠
光スペクトラムアナライザー、光パワーを分光し測定光
バンドパスフィルター特性が狭帯域かつシャープで高性能品に
■はじめに
近年、持続可能な社会へ向けた取り組みの加速に伴い、光技術を通信、医療、材料加工、環境計測やセンシングなど幅広い分野へ応用する動きがより活発になっている。
これらの分野では、可視光から中赤外光にわたるさまざまな波長領域でレーザーの開発が盛んである。
例えば、DFB-LD(Distributed Feedback-Laser Diode:分布帰還型レーザー)やVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser:垂直共振器面発光レーザー)などの半導体レーザー、CO2などのガスレーザー、ファイバーレーザーや量子カスケードレーザーなどが挙げられる。
また、近年では、シリコン基板上に光導波路、光変調器、受光器などの素子を集積するシリコンフォトニクス技術が注目を集めている。この技術は、経済性、省電力化、高集積化といった特長から技術開発が盛んに行われている。
これらの分野においても、光学デバイスや光学部品の研究・開発・評価・解析、生産時の試験・検査において、光スペクトル測定は、不可欠な測定要件となっている。
■光スペクトラムアナライザー
光スペクトラムアナライザーは、各波長に対応した光パワーを分光により測定し分析を行う測定器である。光スペクトラムアナライザーに入力された光は、内部の光バンドパスフィルターで狭い波長スロットに分割され、フォトダイオード(O/E変換器)で電気信号に変換される。光バンドパスフィルターの中心波長を掃引させながら得られる電気信号をプロットしていくことで光スペクトルが得られる。この光バンドパスフィルターは、回折格子を使用したメカニカルな装置でモノクロメーターと呼ばれる。光バンドパスフィルターの特性が狭帯域でかつシャープであるほど高性能な光スペクトラムアナライザーと言われている。また、光バンドパスフィルターの中心波長を制御する精度が高いほど波長測定確度が良いことになる。
横河計測製「光スペクトルを正確に測定」
波長350ナノから5500ナノメートルまで 8モデル品揃え
■YOKOGAWAの光スペクトラムアナライザー
横河計測では、長年にわたり分散分光方式(モノクロメーター方式)の光スペクトラムアナライザーを開発/販売してきた。モノクロメーター方式の特長は、測定波長範囲の広さと、ダイナミックレンジの広さである。回折格子という分散素子をモーターによって回転制御する古典的な技術であるが、光ファイバー通信の技術革新とともに、「光スペクトルを正確に測定する」という基本理念に基づいて、計測技術を磨いてきた。光通信デバイスの研究開発においては、高分解能かつ高確度での測定が必要とされている。
また、増産が続く光通信用デバイスの生産工場においては、タクトタイムが重要視されるため、測定器による検査時間の短縮が望まれている。横河計測では、これらのお客さまのご要望に応えるべく、高分解能化や高確度化、測定時間の高速化にも力を注いできた。さらに光スペクトル測定の要求は、通信以外の光応用の分野でも、紫外線から赤外線まで幅引く存在する。
横河計測の光スペクトラムアナライザーは、光ファイバー通信の分野で培われた高精度な測定技術を活用し、波長350ナノ~5500ナノメートルまでの範囲で8モデルをラインアップする(図1)。
■AQ6380
AQ6380は、次世代通信ネットワークに使用される光トランシーバーや光コンポーネントの研究開発に必要な測定性能を備えた光スペクトラムアナライザーである(図2)。近年、光通信の高速大容量化が進み、周波数利用効率の向上や省電力化などを目的としたさまざまな開発が行われている。今後の光コンポーネントは複雑化、集積化が進むとされ、より高精細な光スペクトルを測定する要求が高まると予測する。AQ6380光スペクトラムアナライザーの波長分解能は従来モデルの中でも最も高い5pmを達成した。また、近傍ダイナミックレンジは60デシベル(ピーク波長プラスマイナス0.1ナノメートル)を達成し、さらに高精細な光スペクトル測定が実現できる(図3)。あわせて、新しい測定感度モードを搭載し、当社従来機種比で最大20倍の速度で測定が可能となった。
AQ6380は測定性能だけでなく、タッチパネル操作やAPP機能など、操作性にも改良を加えており、お客さまの開発効率改善に寄与できる。将来の情報通信インフラとなる光通信技術の進展に貢献していく。
■AQ6360
レーザーダイオード生産ラインにおける出荷検査においても、光スペクトラムアナライザーは使用される。特に、レーザー性能の重要指標であるサイドモード抑圧比(SMSR)測定は、全数検査が行われる場合もある。生産時のタクトタイム改善のため、光スペクトラムアナライザーには高速での測定が求められる。
横河計測のAQ6360は、そのような生産ラインでの要求に応えるために、高速測定や小型省スペースを実現した製品である(図4)。測定速度は、従来機種のAQ6370Dと比較して最大2倍の速さで掃引が可能である。高さ4Uの小型筐体(きょうたい)により、テストシステムや自動機への組み込みスペースを抑えることができる。
光デバイス製造に最適化されたAQ6360で、効率的なレーザーダイオード生産をサポートする。
■AQ6377
光技術がさまざまな分野で使用されるようになっていることは前述したが、AQ6377は環境計測やセンシング分野の波長帯域をカバーする光スペクトラムアナライザーである(図5)。AQ6377が測定可能な波長帯域は、1900ナノ~5500ナノメートルであり、この波長領域には二酸化炭素やメタンといった温室効果ガスを検出できる波長が存在する。温室効果ガスの検出には中赤外帯域のレーザー吸収分光方式が使用され、この装置には小型で取り扱いの容易性などから単一縦モードで発振する量子カスケードレーザーが搭載されるようになった。ただし、中赤外域の量子カスケードレーザーは、開発途上にあり、研究段階での正確な光スペクトル測定が要望されている。AQ6377は、光ファイバー通信の分野で蓄積された光スペクトル測定技術を中赤外域に展開した測定器であり、より正確な光ペクトルを測定できる。今後、環境計測の分野においても、研究の促進に寄与していく。
■まとめ
今後も光技術を利用した応用分野は広がっていくと想定され、測定に要求されるお客さまのニーズも同時に変化していくと考える。横河計測は、光スペクトル測定を通して、より多くのお客さまの課題を解決できるよう、チャレンジを続けていく。
〈筆者=横河計測〉