2022.01.14 【新春インタビュー】 TDK・石黒成直社長

全社一丸でチームワーク発揮

―2021年を振り返るといかがでしたか。

 石黒 前年に続いて、コロナに明け暮れた一年でした。当社グループはグローバルで約13万人の社員が在籍していますが、そのうち新型コロナウイルスの罹患(りかん)者となった方もいれば、非常に残念ながら命を失うことになった方もおり、そのことは心痛の極みであり、仲間を失ったことをとても悲しく思っています。

 それでも、コロナに負けず、必死になって製品を供給し続ける活動を全世界の社員が一丸となって頑張ってくれました。全社が一丸になったということを特に強く感じた一年でした。つらいことが多い中でも、先々に向けて、よりチームワークが発揮できた一年になったと思います。

 ―コロナ禍での業務は、社員の皆さんも大変苦労されたと思います。

 石黒 多くの方々がいろいろな苦労をした一年だったと思います。コロナ感染が拡大する中で、会社に出社すること自体もリスクがありましたし、自らが感染源になってしまうかもしれないという緊張感を感じながらの業務だったと思います。材料不足の問題もありましたし、何重にもわたる困難な中で真摯(しんし)に業務に打ち込んでくれました。

 私は、コロナが広がり始めた20年の春ごろから、「新定常状態」という言葉を使ってきました。これは、コロナが終息しても完全にコロナ前の状態に戻ることはない、新しい働き方を考えていかないといけない、ということです。

 当社では幸い、18年からコアタイムをなくし、在宅勤務が選べるスーパーフレックス制を導入していましたため、コロナ禍での在宅勤務もスムーズに進めることができました。そして、コロナ禍の中で在宅勤務の手法をブラッシュアップしたことで、現在は効率を落とすことなく在宅勤務ができる体制ができています。これは非常にありがたいことで、全てのセクションの人たちに感謝しています。

 ―21年の電子部品市場の動向はいかがでしたか。

自動車関連需要が旺盛

 石黒 全体の市況は悪くなかったです。特に21年の夏場にかけては自動車関連の需要が旺盛で、部品オーダーも活況でした。おかげで、当社の今年度上期の業績は過去最高を更新することができました。下期に入り、自動車の減産が広がっていることから、それまでの狂乱的な受注状況からは少し落ち着いてきていますが、直近でもそれほど悪くない状況が続いています。

 ―22年の業界をどのようにみておられますか。

 石黒 デジタル化による技術変革の流れや、リニューアブルエナジーの活動拡大の動きは、今後も止まることは考えられません。今後の電子部品需要は、マクロ景気に左右されてアップダウンすることはあると思いますが、DX(デジタルトランスフォーメーション)とEX(エネルギートランスフォーメーション)への大きな潮流は変わらないと思います。私は、22年も絶対に需要は低迷しないという自信を持っています。ただ、21年は前年と比較した成長率が相当高かったため、成長率自体は21年よりも劣ると思いますが、1桁台半ばから後半の伸びは期待できると考えています。

電子部品でDXとEXに貢献

 ―21年度から新中期経営計画「Value Creation 2023」(3カ年)をスタートしました。

 石黒 かつてのわれわれの仕事というのは、顧客がどんな部品を望んでいるかという情報をいち早く入手し、それに沿った部品をできるだけ早く開発することに注力してきました。しかし現在は、そうした顧客の要望を聞くだけではなく、部品メーカー自らが提案していかないといけない時代になっています。そうしないと価値を創り出すことができません。

 このため、当社は今年度、新たなコーポレートレベルのマーケティング組織として「コーポレートマーケティング&インキュベーション本部」を開設しました。同組織は事業部横断型の組織として、完成品の動向や半導体の動向、多業種の動向などを多角的に捉える活動や、部品単体ではなく、複合化して提案していくためのマーケティングを進めています。電子部品情報だけではなく、完成品の最新の動きや世の中の潮流を見極めていくことで、タイム・ツー・マーケットの迅速化につなげていきます。

 ―今後の重点経営施策は。

センサーで大輪の花を

 石黒 今年度上期に良かったことは、センサー事業の黒字化にようやくめどがついてきたことです。センサシステムズビジネスカンパニーの業績は過去4年間赤字が続き、20年度は250億円ほどの赤字を計上しました。これが四半期ベースで今年度2Q(21年7~9月)に黒字化することができました。かなり安定的に黒字化できるベースができてきています。

 当社は、センサーの用途は無限大である、という信念のもとでセンサー事業を強化し、さまざまなM&Aも実行しましたが、これまでまいてきた種がかなりしっかりと芽を出してきました。今後が楽しみだと考えています。今年度通期のセンサー事業の売上高は1200億円を超える見通しです。来期以降、大輪の花を咲かせたいと思います。

 ―カーボンニュートラルにはどのように取り組まれていますか。

 石黒 カーボンニュートラルでは①当社自身の事業活動を通じたカーボンニュートラル化と②われわれの手掛ける部品で社会全体のカーボンニュートラル化に貢献する、という両方の観点で取り組んでいます。

 事業活動を通じたカーボンニュートラル化では、当社は従来、省エネルギー化を重視してきました。当社の事業活動の中でエネルギー消費量が大きいのは、クリーンルームでの電力消費と焼成炉での電力消費であり、この二つで全体の7~8割ぐらいに達すると思います。このために、クリーンルームを見直して局所クリーン化していくことや、焼成炉での焼成方法の見直しを進めることで、省エネ化を追求しています。

 リニューアブルエナジーの活用拡大にも積極的に取り組んでいます。工場の屋根への太陽光発電パネル設置なども進めていますが、それだけでは限界があるため、使用する電力のグリーン系エナジーへの切り替えに力を入れています。具体的には秋田地区での洋上風力発電導入や水発電導入などを進めていく計画です。これらの地道な努力を続けることで、2050年のカーボンニュートラル実現を目指していきます。資金調達面でも、今年度は初めてサステナビリティ・リンク・ボンドによる資金調達を実施しました。

 エネルギーだけでなく、水も重要です。当社は水質について、CDPから好評価をいただいています。今後もあらゆる角度から、サステナビリティーに対するレスポンシビリティーをまっとうしていきたいと思います。

 一方、製品でのカーボンニュートラルへの貢献では、われわれの開発したバッテリーを蓄電池に利用していただき、太陽光発電で日中にためた電力をタイムシフトユースしていただく提案を20年から始めましたが、おかげさまで日本の大手太陽光発電システムメーカー3社に採用していただいています。

 今後もわれわれの電子部品でDXとEXに貢献していくことで、世の中に役立ちたいと考えています。

価値創造サイクルを回す会社に

 ―中型のバッテリー事業の強化では、21年には中国リチウムイオン電池大手のCATL社との合弁会社の設立を決定されました。今後も社外とのパートナーシップやアライアンスには力を注がれるのですか。

 石黒 アライアンスは非常に重要だと考えています。われわれが持っていない技術や、共に仕事をすることで価値が上げられるもの、こういったことをどんどんパートナーと一緒になって進めていきたいと思います。

 バッテリーのビジネスについても、TDKグループのATLはスマホやタブレット用が中心ですが、今後大きく立ち上がっていくのは車載バッテリーです。われわれのバッテリービジネスが将来マイノリティーになっていくかもしれないという危機感から、自動車用バッテリーのパートナーと一緒になって、材料の調達やリサイクリング、技術開発を進めていくことが重要だと考え、CATLとの合弁契約を締結しました。

 もう一つ重要と考えているのは半導体メーカーとの協力関係です。一例としては、数年前に高周波部品事業を売却した米クアルコムです。われわれのセンサーとクアルコムのICを組み合わせることで、新しいアプリケーションや新しいテクノロジーの開拓につなげていきたいと考えています。これにより、タイム・ツー・マーケットを短くすることができると思います。

 ―21年は半導体不足が大きくクローズアップされた年でした。

 石黒 われわれ自身も半導体不足で苦労しました。特に電源やオンボードチャージャーなどで使用するパワー半導体や、センサー用回路で必要となるASICなどの確保で苦労しました。その意味でも半導体メーカーとのパートナーシップは大切です。同時に、サプライチェーンを安定化させるための複数拠点化なども重要だと考えています。

 ―改めて、22年に向けた抱負を聞かせてください。

 石黒 より多くのカスタマーやコンシューマーをリッチにしていくための能力をブラッシュアップしていく年にしたいと考えています。われわれ自身が世の中で起こることをコントロールすることはできないわけですが、世の中は変えられなくても自分たちが変わることはできます。カスタマーやコンシューマーが求めていることを実現できる会社、価値創造サイクルを回していける会社にしていきたいと思います。

(聞き手=電波新聞社 代表取締役社長 平山勉)