2022.02.23 サーモグラフィーカメラ より正確な温度測定へチノーと産総研が基準となる平面黒体装置を開発
チノーと産総研が開発した平面黒体装置の試作機
赤外線サーモグラフィーカメラは、新型コロナ禍で感染の可能性がある発熱者をスクリーニング(選別)するために利用が急拡大した。企業の受付や病院の窓口に置かれたカメラ付きタブレット型機器のディスプレーに表示された熱分布画像で自分の体温をチェックした人も多いだろう。
赤外線は電磁波の一種で、温度を持つ全ての物体から放射される。赤外線サーモグラフィーカメラはレンズとセンサーで物体からの赤外線放射量を温度に換算して可視化する機器だ。軍事用途で開発された技術で、従来、非接触の温度計として機器の異常検知や建物の劣化診断など、産業分野で幅広く活用されてきた。
サーモカメラを使って温度計測をするには、測定値のずれを補正(校正)する必要がある。正しい基準を基に測らなければ、表示された数値の信頼性を担保できないからだ。
チノーは、産業技術総合研究所と共同でサーモグラフィーの高精度な校正を可能にする平面黒体装置を開発した。黒体はサーモカメラを校正するための標準器で、国家標準器は産総研が所有しており、これがサーモグラフィーの校正基準の根拠になる。
サーモグラフィーは非接触で体表面温度を計測できるが、外気温などの影響を受けやすいため、現場での活用に当たっては平面黒体装置を使った測定値の補正が推奨される。
今回、体温付近の温度と赤外線放射量を正確に換算できる平面黒体装置を開発した。これを基準とすることで、測定対象や周辺環境の影響を評価しつつ、より正確な体表面温度計測のための現場校正が可能になると期待される。
産総研計量標準総合センター応用光計測研究グループの雨宮邦招研究グループ長は「サーモカメラは使用するにつれ測定値が徐々にずれる。黒体装置で正確な校正をすれば機器の信頼性を維持・向上できる」と意義を強調する。
チノーが担当したのは黒体材料の基板の温度制御だ。アルミニウムの基板表面に樹脂で製膜。基板の裏にヒーターを貼り付けて温度を制御する。温度安定性のために直流にするなど外乱対策も行った。
同社久喜事業所標準技術部の佐々木正直部長は、スクリーニングの現場に黒体を設置して補正するだけでなく、「広く普及している額式体温計の精度保証をするチェッカー用途でも平面黒体装置を活用できる」と期待する。
サーモカメラの応用範囲は広い。スマートファクトリーに向けて、組み込み型モジュールにして他のセンシングデバイスと組み合わせたり、可視カメラとAI(人工知能)を搭載して交通事故の早期検知を実現したりといった新しい取り組みも行われている。
(24日付電波新聞・電波デジタルで詳報します)