2022.05.20 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<87>5G×ディープラーニング=DXになる⑧
「資源がどこにあるのか?」「資源をどうやって利用するのか?」という視点は、あらゆる産業において重要だ。
例えば、川の向こう岸に発電所があっても、送配電網が整備されていなければ電力供給は受けられず、事業所内に自家発電装置を設けなければならない。それは、モノやサービスの価値を生み出す〝エネルギー〟資源に限ったことではなく〝情報〟資源でも同じだ。
ここでいう「情報資源」とは、図書館情報学用語辞典によると「組織にとっての資源とみなされた情報。天然資源などの用法を情報に当てはめて用いられる」とある。
したがって、プロセス変革や組織変革の価値を生み出すデジタルトランスフォーメーション(DX)に不可欠なビッグデータと人工知能(AI)も情報資源と言えるだろう。
貴重な情報資源に
両者は、フィジカル空間(現実空間)で解決できない課題を、サイバー空間(仮想空間)で解決してくれる貴重な情報資源になる。しかし、自前で運用するのは大変で、コストがかかるのも事実だ。
そこで、情報資源を持たずに利用する方法が肝要となる。仮に、川を跨ぐ架空送電線による送配電網が整備されれば、自家発電装置を設けなくても済む。これと同じように、インターネットの向こう側にあるクラウドへの超高速なローカル5G回線が整備されれば(本連載29回参照)、自社内にわざわざ情報資源を持つ必要がなくなるわけだ。
パブリッククラウドにはAIの一つでもあるディープラーニングを実現できるソフトウエア資源も用意されており、パソコンやタブレット、スマートフォンから利用できる。すでにディープラーニングのオープンソースソフトウエアライブラリー(ソースコードの使用や修正、再配布が可能な無償ソフトの部品群を取りそろえている場所)があるため、導入のハードルが低い。
例えば、グーグルのTensorFlow(テンソルフロー)やメタ(旧フェイスブック)のPytorch(パイトーチ)などがあり、いずれもプログラミング言語「Python(パイソン)」を使用して実装できるようになっている。
最近は、ソースコードの記述が不要で、マウスなどで操作できるGUI(グラフィカル・ユーザー・インタフェース)を用意している「ノーコード」のプラットフォームも登場している。このプラットフォームを使えばPythonエンジニアのいない中小企業でもディープラーニングを実装できるようになってきている。
具体的な利用シーンでみると、カメラによる画像認識を活用した顔認識や異常検知、自動検品などでは、事前にディープラーニングのライブラリーに大量の訓練データを学習させる必要がある。
この学習を効率よく行うためには、GPU(グラフィックプロセッサー)を搭載した大規模並列演算ができるサーバーと大規模データストレージを兼ね備えた高性能計算(HPC=ハイ・パフォーマンス・コンピューティング)環境が必要となる。
ハードルが下がる
そこで、アマゾンのAWSやマイクロソフトのAzure(アジュール)、グーグルのGCPといった主要パブリッククラウドサービスではHPCサービスも提供している。中小企業におけるDX推進のハードルは確実に下がっている。(つづく)
〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉