2022.07.04 不況や人手不足にめげず地場の電子部品商社から「見える化」ソフト

活用のイメージ(同社提供)

 
 各種展示会などで注目を集めるのは、大企業の技術ばかりではない。地場の中堅・中小企業の「キラリ」光る製品・技術もある。

 東京ビッグサイトで6月にあった大型展示会、電子機器トータルソリューション展。人だかりができていたのは、群馬県高崎市の「成電社」のブース。小さな一角ながら、パソコンのデモ画面に見入る人が後を絶たず訪れた。目当ては、「ビジュアル先生PRO」というソフト(三喜電機製造)。成電社が約1年前から販売しており、こうした場でのお披露目は初めてだ。

 同社は、電子部品卸売りなどを手掛ける商社で、戦後に創業。街の電器屋さん同様、エレクトロニクス業界の発展と共に業容を拡大してきた。

電子機器トータルソリューション展(JPCAショー)でのブース

 このシステムは、部品の組み立て作業手順などを「見える化」し、モノづくりの現場を支援するもの。仕組みはこうだ。スマホやデジカメなどで撮った画像を使い、コメントをなどをつけて編集し、紙芝居のように手順を示す。基本的に1工程につき1画面で進む。シンプルに操作できるのが売りの一つだ。これを作業者がタブレットなどで参照しながら仕事ができる。

 特徴は、まず視覚的に組み立て作業を「標準化」し、ナビゲートできること。マニュアルが統一され、作業手順としてスライドショーで可視化され、作業者による手順のバラつきを防ぐ。熟練者だけでなく、経験の浅い若手でも、同じ手順で作業でき、品質が安定し、生産性が向上する。

 組み立て作業だけでなく、部材の準備作業についてもナビゲートしてくれ、使用部材収集・配置・管理の最適化も図れる。

 そうした段取りだけではない。工程終了時には検査・確認作業をナビゲートする。誤ったデータがあれば、次に進むことができない。また、ミスが起きやすいプロセスでは、アラームと解説が表示される。こうした、いわば「ポカよけ」の機能が、徹底して現場目線で盛り込まれている。

 労働力不足、ベテラン技能者の引退が課題になるなか、教育・技術の伝承にも役立つ。熟練者の作業を写真にして取り込むことで、技術の伝承についても経験の浅い人が理解しやすくなる。

社内活用契機

 地場の部品商社が手掛ける異色のビジネス。元は外販は想定していなかった。

 同社は1949年、住友通信工業(現在のNEC)に勤めていた創業者が、「電気で成長する」との思いを込めて起業。従業員2人から始まり、「ソケット一つから」でも扱ってきた。それが順調に成長、バブルの影響は受けつつも、2000年代以降になっても、60億~80億円前後の売上高と黒字経営を維持している。赤字計上は一度もないという優良企業だ。

 そんな中、部品を販売するだけではなく、「お客様の課題を解決を」との考えから、エンジニアリング部門も展開するようになったのが近年。さらに、それを強化して20年には、エンジニアリングセンターを開いた。「部品単体で売るのではなく、アセンブリーで提供したほうが喜ばれる」からだ。

 このセンターで活用しているのが、いま販売しているソフトを使ったシステム。見学した来訪者から「ぜひ売ってほしい」との声が寄せられるようになった。

 「自社のノウハウが詰まっているので迷ったが、お客様が同様のシステムを使ってくださるなら、同じ仕組みを使っていることになり、連携して仕事をしやすくなると考えた」と松田社長は言う。

 そこで、利益は度外視し、1ライセンス7万4800円で提供。すでに多数の先に納入するヒットとなる、複数の大手電機メーカーの名前も顧客にある。今回出展した同展でも数百件の引き合いがあり、その場で購入を決めた先もある。

 「高いほうが良質と安心される向きもあるし、もっと採算のとれる値段にすればよかったかもしれませんが、一度、販売を始めてしまったので、改定もできなくて(笑)。展示会でも、『こんなに安くていいんですか』と驚かれた」と社長は苦笑する。

 ただ、採算度外視の背景には、「この製品を入り口にしていただければ」との思いもある。かゆいところに手の届く提案営業が強みの同社。「取り引きが進み、工場に一歩入らせていただければ、そこからビジネスが広がるんです」。いわば、その玄関口がソフトというわけだ。

展示会も

 展示会ではこれまでも、関係のあるパナソニックのブースに協力するといった展開はあったものの、自前でのブース出展は初めて。コロナ禍もあって、ぎりぎりまで迷ったが、出展を決めた。

 「現場では、パナソニックさんがうちのブースを紹介してくださるといった連携もあって、集客効果につながった。成功でした」と、大手とのチームプレーもあったようだ。

 全国電子部品流通連合会(JEP)、関東甲信越電子制御部品流通協議会(NEP)といった、代表的な団体にも貢献している同社。2代目社長から指名を受け、40代の若さでバトンを受けた生え抜きの現社長は「海外サポートにも力を入れている。部品商社としてみがいてきた調達力、さらにモノづくりの力、ラインに向けて提案する力などを総合していきたい」

 戦後創業された会社の多くは、いま3代目世代。よき伝統を受け継ぎつつ、「人手不足などいまの社会課題解決に取り組んでいるのがタイムリー」と他社のトップもリスペクトする。松田社長は「100年企業に向け、さらに歩みを」と意欲を示す。

 むろん、このシステムを使って、自社内のモノづくりもさらに改善していく予定だ。
(5日の電波新聞/電波新聞デジタルで関連記事を掲載予定です)