2023.01.18 【新春インタビュー】タイコエレクトロニクスジャパン 松井啓社長
Eモビリティーなど成長に向け5分野に注力
―2022年を振り返るといかがでしたか。
松井 とにかく早かった一年だったという印象です。変動の激しい市場環境の中において、長期的な価値の創造に取り組んだ一年でした。新型コロナの問題や、材料の入手難と価格の高騰、そして半導体不足の影響で計画通りのオーダーが入らなかったケースもありました。特に半導体不足は、当社の主力市場である自動車市場で大きな影響がありました。一方で、産業機器やクラウド、そして再生可能エネルギーなどの市場の成長にけん引されました。
―22年度(22年9月期)の業績はいかがでしたか。
松井 TE Connectivityグローバル全体は、戦略的に位置付けられたポートフォリオと、サステナビリティー関連のトレンドに焦点を当てることで、堅調な成長が続きました。「トランスポーテーション ソリューションズ」「インダストリアル ソリューションズ」「コミュニケーションズ ソリューションズ」の3セグメントがうまく連動し、好調な業績を達成しました。
TE Connectivityの22年9月期グローバル業績は、売上高(報告ベース)は前期比9%増の約163億ドルとなり、過去最高を更新しました。インダストリアルとコミュニケーションズは2桁成長、トランスポーテーションも1桁台の成長で、全セグメントが成長しました。
半導体や材料不足の深刻化などの課題が見られた中でも、電気自動車やクラウドコンピューティング、再生可能エネルギー、FAなどの長期的な成長を強化し、顧客とともに技術革新に注力したことで、堅調な業績を達成できました。
―23年の市場をどのように展望されますか。
小幅な伸びを予想
松井 23年の市場はなかなか不透明な状況があります。特に近年は、毎年のように予想外のさまざまなことが起きています。
ただ、われわれは、ビジネスプログラムに沿って、しっかり種まきを行っています。電気自動車市場へのアプローチやFA市場への提案など、さまざまなプロモーションを実施しています。あとは23年の市況予測は困難ですが、全体の需要を考えると小幅な伸びになるのではないかと予想します。
―23年に向けた成長期待分野は。
松井 自動車関連では、急速に変化するEモビリティー分野の未来を見据えて高電圧ソリューションの開発を強化しています。インダストリアルでは、FA関係や再生可能エネルギー市場などに期待しています。このほか、航空宇宙関連へのアプローチ強化に努め、民間航空機分野でも採用が進んでいます。メディカル関連は、ここ数年はコロナの余波で低調でしたが、今後は回復が期待できると思います。コミュニケーションズは、21年には巣ごもり需要で非常に好調でしたが、現在はその反動が出ている状況で、23年も前年並みくらいでの推移を予想しています。
また、最近の業界全体の動きを見ると、コロナ禍を考慮したBCP対応強化の一環として、日本やASEANでのモノづくりを強化する動きがあり、われわれにはポジティブだと思います。日本国内で半導体を内製化する動きも見られていますし、そうした動きが具体化すれば新たなビジネスチャンスが生まれると考えています。
―23年度(23年9月期)に向けた成長戦略は。
松井 サステナビリティーを推進し、成長に向けた重点分野として①Eモビリティー②データコネクティビティー③FA④クラウドコンピューティング⑤再生可能エネルギーの5分野に注力します。
クラウド関連では、ハイパースケール顧客向けの製品開発を日本の開発チームがサポートするなどの形でビジネス展開しています。再生可能エネルギー分野では、今後も情報収集に努めビジネスを拡大したいと考えています。Eモビリティー関連では、安全かつ高品質な高電圧コネクター/充電用インレットのラインアップが充実してきたため、積極的なプロモーションを図っていきます。同時に、中長期の成長分野発掘に向けた最先端情報の共有化もグローバルで進めたいと思います。
市場変化に素早くアクション
―スマートワークの取り組みはいかがですか。
松井 当社では、コロナが始まる前から、リモートワーク/スマートワークの活用を通じた働きやすい職場環境づくりをスタートしていたため、実際にコロナ禍となった際にもスムーズにリモートワークに移行できました。
社員向けにリモートワークに対する満足度調査を実施したところ、「実施して良かった」という回答が約70%に達しました。最近は各社員もリモート業務に相当慣れてきているため、社内のコミュニケーションなどもよりスムーズになっています。今後もリモートワークを継続する方針です。働きやすさの追求に向け、リモート業務のルールで改善が必要な部分は順次改善していきます。
―オンラインを活用したプロモーション活動にも力を入れています。
松井 オンラインを活用した営業活動変革は、改善の余地があると思いますので、工夫をしてきたいと思います。リアルとオンラインをうまく結合させながら取り組みます。
―デジタルトランスフォーメーション(DX)の活用はいかがですか。
世界中の業務分かる
松井 DXの導入を通じて、世界中で誰がどのような業務を進めているのかが分かるようになっています。社内業務のDX化は確実に進んでいます。昨年取り組んだ事例に「バーチャル内覧会」があります。グローバルで開発を進めている新製品を、それを求めるユーザーにデジタル技術を活用してタイムリーに紹介する、という仕組みをさらに強化しました。当社の開発する製品は、他国のグループ拠点と共同で行うプロジェクトも多いです。量産場所の選定なども現地の社員と早い段階で打ち合わせながら進めています。
―最近は一段と変化の激しい時代です。
松井 当社はグローバル企業ですので、変化への対応速度は速いと思います。在庫の調整なども迅速に行うように努めています。さらに、市場変化に素早くアクションしていくことがモットーです。
原材料高騰に対処するための販売価格是正にも取り組みました。顧客に対し、代替可能なアクションに努めている当社の努力を伝えながら真摯(しんし)に説明することで、顧客に最適なソリューションを提供できるよう努めています。
―今後の設備投資計画は。
松井 顧客が求める場所でモノづくりを行うのが基本方針になります。TEのグローバルリソースをうまく活用し、顧客の要求に追従していきます。
TEジャパンは21年に宇都宮営業所を開設しましたが、宇都宮近郊の顧客とのコミュニケーション強化が図れ、効果が出ています。
また、中国では、オートモーティブの新たなエンジニアリング技術センターを設立しました。今後は中国をはじめアジア太平洋地域の電気自動車やデータコネクティビティーなどの市場に革新的な技術を提供し、自動車産業の継続的発展への貢献に努めていきます。タイ工場も生産性向上に努めています。掛川工場(静岡県掛川市)も効率化や省人化のレベルを高めていきます。今後はローカライゼーションを強化し、競争力を高めていきます。
持続可能な方法で製品を設計
―サステナビリティーの取り組みは。
松井 TEではグローバルの「2030年に向けた新たな持続可能性目標」を設定し、将来的なビジョンにより重点を置いた長期的な持続可能性および企業責任に関する戦略を発表しました。TEでは、30年までに達成すべき九つの戦略目標を掲げています。具体的には「持続可能性の製品製造プロセスへ適用」「取引先や物流業者と提携したサプライチェーンの持続可能性強化」「すべての差異を大切にし、すべての意見に耳を傾ける企業文化の強化」「次世代技術教育において300万人に影響を与える」「世界的な人権プログラムの実施」などになります。
TEは、温室効果ガス排出量、水使用量、廃棄物削減など環境への影響軽減に取り組んでいます。環境負荷の少ない材料や材料の再利用など、より持続可能な方法で製品を設計しています。また、電気自動車の普及や再生可能エネルギーの推進、そして効率の高いデータセンターを実現などの分野で、サステナブルな製品とソリューションを提供するため、継続的に技術革新に取り組みます。
―23年の経営テーマは。
松井 サステナビリティーに重点を置く事業活動を推進し、重点5分野にフォーカスした展開を図ります。DXの一層の推進も重要テーマです。また、ダイバーシティ&インクルージョンマネジメントを推進し、そして、社内の横の連携を強化し、企業価値を高める経営を進めていきます。
最近の業界は、産業分野別の垣根がなくなり、技術交流をボーダーレスで実施していかなくてはいけません。通常の技術交流会に加え、ここ数年、TEジャパン社内で中止していた社内イベントも23年は再開したいと思っています。全事業部から従業員が集まり、食事をしながら交流する会議を実施したいと思います。
23年に向かってたくさんの挑戦に直面しますが、TEは引き続き、より安全で持続可能な社会の実現、より豊かな、つながる未来の創造に貢献していきます。グローバルのダイナミックな環境を念頭に、多様なポートフォリオを通じて成長を推進し、ビジネスモデルと長期的な価値創造に力を注ぎ続けます。さらに、長期的な成長トレンドに注力し、世界中の顧客とともに革新を続け、持続可能な未来の実現に貢献します。
(聞き手は電波新聞社代表取締役社長・平山勉)