2020.02.06 日系エレクトロニクス各社 新型肺炎拡大への対応急ぐ 春節後の工場再開延期

 日系エレクトロニクスメーカー各社は、新型コロナウイルスによる肺炎拡大への対応を急ぐ。本社内に対策本部などを立ち上げ、デイリーでの状況確認を実施するほか、中国工場の春節後の操業再開延期、中国への不要不急の出張を控えるなどの対策を講じている。

 中国現地法人への日本からのマスク支給といった支援にも力が注がれる。一方で、今回の問題が業界のサプライチェーンや経済に与える影響などはまだ未知数であり、各社とも情報収集活動に全力を挙げている。

 今回の新型肺炎の発生地である武漢市は人口約1100万人を擁する中国内陸部の代表的都市。自動車をはじめ、鉄鋼や半導体、家電、電子部品などの企業が多くの工場を構え、特に近年は自動車産業とハイテク産業の集積地として大きく発展を遂げている。

 日系企業では、ホンダや日産自動車が武漢市に工場を展開。社数は少ないが、日系の家電や電子部品メーカーなども工場を置いている。

 日系エレクトロニクスメーカーの武漢拠点では、ダイキン工業の大型空調(アプライド)工場が、湖北省政府の通達に従い、14日まで休業。状況次第で延期の可能性もあるという。メイコーの武漢工場も稼働開始日を14日に延期した。従業員は自宅待機だが、14日の稼働も状況によっては不透明とする。

 日立製作所は武漢市に約700人の従業員がおり、エレベータの保守や自動車部品などを手がける。武漢市には2人の日本人がいたが、1月中にチャーター便で帰国した。島津製作所は武漢市の武漢分析センターの休暇を13日まで延長した。アンリツは武漢の営業拠点に9人(日本人はいない)がいるが、現在は閉鎖した。

湖北省は渡航禁止 中国全土出張自粛

 各社の湖北省を除く中国拠点では、中国政府や地方政府の通達の下、大半の企業が春節後の操業再開日を10日に延期している。また、多くの企業が湖北省への渡航禁止、湖北省を除く中国・香港への不要不急の出張を控える通達を出している。

 パナソニックは武漢近辺に拠点はないが、湖北省渡航禁止・中国全土渡航自粛とした。中国の全事業所および関係会社約80社は9日まで休業する。シャープも中国全土渡航自粛・湖北省渡航禁止とし、中国国内の現地事業所は原則、現地省・市政府の通達に基づき9日まで休業。ダイキン工業も武漢以外の中国拠点は9日まで休業。

 富士通も湖北省は渡航禁止、それ以外の中国へは不要不急な出張を控える指示を出し、「中国の拠点や関係会社には、中国政府の動きに対応してテレワークなどを指示している」(磯部武司執行役員常務CFO=最高財務責任者)。

 日本精工も中国工場は10日に再開予定。同社は中国に11工場があり、武漢には営業所がある。中国の現地従業員は約7000人いるが、感染者はいないことを確認済み。富士電機も中国拠点の操業開始日を10日とした。

事業への影響不透明

 一方、今回の新型コロナウイルスの問題が事業に与える影響などはまだ不透明な部分が多く、各社とも情報収集に努めている。

 ソニーの十時裕樹代表執行役専務CFOは「春節休暇が延長されているので情報収集は難しいが、イメージング、エレクトロニクスではサプライチェーンに多大な影響が出る可能性がある」とする。上海と無錫に空調機器などの生産拠点がある富士通ゼネラルの庭山弘副社長は「移動規制で春節後に工員が戻ってこられるのか、工場の稼働日が足りるのか懸念がある」と話す。

 三菱電機は「春節の休みを延長しているため、状況が十分把握できる段階にない」(皮籠石斉常務執行役経理部長)とするが、経済的影響は今後出てくるとの見方で引き続き状況を注視する。NECの森田隆之副社長兼CFOは「直接的影響はそれほどないが、今後、影響が懸念されるのがサプライチェーン。長期化すれば部品調達にも影響が出る可能性がある」と述べた。

 NTTデータの柳圭一郎副社長執行役員は「中国は日本向けのオフショア開発やBPOサービスの拠点がある。現時点では現地でテレワークを駆使するなどしているが、さらに通勤ができないなどの事態が中国全土に拡大すると、何らかの影響が出てくる可能性もある」と説明。

 野村総合研究所の深美泰男専務執行役員は「開発パートナーは湖北省にはないが、中国国内に影響が広がり、閉鎖や移動の制限がかかってきたときの対応は考えないといけない」とした。

代替生産の検討開始

 中国国内に工場や営業拠点を展開する日系電子部品メーカー各社も、新型肺炎感染拡大への対応を急いでいる。大半の企業が、湖北省への出張禁止、湖北省以外の中国全土への出張自粛通達を出すとともに、中国拠点の稼働開始日を延期した。一部の企業では、中国工場の休暇延長への対策として、代替生産などの検討も始めている。