2023.07.21 【家電流通総合特集】パナソニックマーケティングジャパン 宮地晋治代表取締役社長

条件付き販売を拡大

IoT家電の接続率高める

 4~6月の家電需要は全体的には厳しかった。ただ、そうした中でも当社は、条件付き販売という新しい販売スキームを推進し、専門店で買っても家電量販店で買っても同じ価格を維持できるような、差別化を図った商品展開を強化してきた。

 例えば、「ななめドラム」という文化をつくったドラム式洗濯乾燥機は、国内外のメーカーと明確に差別化できている商品だ。高いシェアを獲得できるような商品で条件付き販売を広げていきたいと思っているし、ナンバーワンではないような商品は、その本質を見直し、お客さまが本当に必要とするような機能の実装など、商品力を強化していかなければならないと思っている。

 条件付き販売の拡大と合わせて重要なのが、IoT家電の接続率を高めることだ。今年4月からエアコンやドラム洗などで、専用アプリにつなげると商品のメーカー保証を3年間無料にする延長保証サービスを本格的に始めた。ネットワークへの接続率が最も高いエアコンでも現状では5割もいっていない状況で、それを高めるために導入した。

 延長保証サービスの開始で接続率は上がったが、まだ期待したレベルには達していない。店頭説明を含めて認知が広まっていないからだろう。今後はここを改善していく必要がある。

 ただ、ドラム洗を延長保証サービスの対象にしたことは大きいと思っている。ドラム洗で「故障した」とお客さまから連絡を受けて駆け付けると、糸くずフィルターが詰まって水漏れしているだけのケースが多々あるとサービス担当者から聞く。フィルターをきちんと掃除していれば問題とならないことも少なくない。IoT接続していれば、メンテナンスの時期をスマートフォンに通知するなどで、わざわざサービスに連絡せずともお客さまで十分に対処できてしまう。

 IoT接続することは、適切なメンテナンス時期の通知などを通して商品を長く使ってもらう「サーキュラーエコノミー(循環経済)」の考えにもつながる。エアコンクリーニングといった家電の洗浄サービスも、エアコン以外に広げれば、サーキュラーエコノミーをさらに加速することにつながる可能性もある。そのため、洗浄サービスの対象家電の拡大も検討している。

 冷蔵庫などの大型家電における10年といった長期保証サービスの提供をはじめ、設置を伴う大型家電をサブスクリプション(定額制)で提供することも、ライフスタイルが変化した現在では需要があるかもしれない。家電でもリユース品やリファービッシュ品(メーカー再生品)に対する需要が広がっているため、サステナビリティー(持続可能性)の視点からも検討の余地はあると思っている。

 量販店とは在庫情報の共有も一部で始めている。各法人の方針や考え方を尊重しながら進めたいと思っている。

 一緒に取り組んでいる法人とは、ドラム洗などで効率的な運営を実現できている。2024年の物流問題を踏まえて、5年、10年後にはお客さまへの直接配送などが進むことも視野に入れて試行錯誤しているところだ。

 これまではお客さまに商品を買ってもらうことに最大のパワーを使ってきた。今はそうではなく、長期的に商品を使ってもらい、適切な時期に買い替えてもらえるようにすることが重要。それには生活に寄り添い、差別化した商品でサービス価値を提供していくことが求められる。量販店との在庫情報の共有や新しい販売スキームは、まさにそれを目指したものになる。

エリア制が始動

 4月からは、七つのエリアに分けた新しい組織として始動した。電気代の高騰で省エネ家電の購入を助成する補助金を出している自治体も少なくない。そうしたエリアごとの情報を迅速に提供できるようにすることも、エリア制を導入した狙いの一つだ。

 エリアごとに特性も違うため、売れる商品の傾向も異なる。これまでは全国一律での販促策だったが、それをエリアごとに適した商品の販促策を打てるようにしていく。例えばこのエリアではスティック掃除機、このエリアでは食器洗い乾燥機--といった具合だ。

 エリア制にしたことで、量販店とパナソニックショップ(PS)などを含めて、物流体制をどう整備するかといったことも検討できるようになっている。量販店とPSを分けて考えるのではなく、同じエリア内であれば、今後は効率的に商品を配送できるようにしていかなくてはならない。

 そうしたことを実現するためにも、中四国エリアでは、量販店担当者とPS担当者を思い切って入れ替え、情報共有を図りながらこれまで以上のシナジーを発揮できないかとトライアルを進めている。エリア制の利点はチャンネルの壁をなくし、それぞれの情報を持ち寄って販売に生かせることだ。4月からスタートしたばかりであるため、まだトライアル的な側面は強いが、今後、こういう事例が次々と生まれることを期待している。

 PSからは、新体制への期待とお叱りの声の両方をいただいている。もっとスピードを上げてエリア制のメリットを発揮していきたいと思っている。PSのDX(デジタルトランスフォーメーション)も推進していく。PSとともに新しいシステムをつくっていきたいと思い、社内にDX推進室も組織した。

 LINEを使い、お客さまへの商品提案や接点活動の強化を行っているPSも既に多い。ただ、LINE単体で使っているケースが大半で、そこに顧客管理システムやパナカードを連携させれば、さらなる価値を生み出せるはずだ。PSのDXにつながるこうした新たなシステムを24年には整備し、提案したいと思っている。