2024.01.10 【電子部品総合特集】ハイテクフォーカス 京セラ
シリコンフォトニクス搭載のオンボード光電気集積モジュールを開発
第一節 データーセンターの消費電力量削減とコンピューター内光配線の実現に向けて
全世界の携帯電話サービス累計契約数が80億件を超え、5Gインターネットも急速に普及していることで、情報処理量の爆発的な増大が現実となっている。この情報処理を支える世界中のデーターセンターの電力消費量は、2016年では約1000億kWhであったが22年では約5000億kWhまで増大している。さらに、30年では、約4兆kWhまで増大すると予想されており、大きな社会問題となっている。
電力消費の増大の要因は、データーセンターに多数用いられるコンピューター内でCPUやGPUなどの情報処理の中枢部品の発熱量が増大していること、それらの部品を冷却するための電力が増大していることが主な要因である。部品の発熱量が下がることで過度な冷却も不要になり、その結果としてデーターセンター全体の電力消費量は抑制される。
そこで、データーセンターの電力消費を低減する技術の一つとして、コンピューター内の電気配線の一部を光配線に置き換えて、電気配線と光配線をコンピューター内に混在させる光電集積技術が着目されている。光電集積技術とは、数十~数百キロメートルのネットワークインフラを少ない電力で実現させていた光配線の技術をコンピューター内の短距離配線の一部に活用することであり、さまざまな国内外の企業や研究期間で開発が進んでいる。京セラ先進マテリアルデバイス研究所でも、これまで社内で培ってきた光と電気の技術を元にして本格的に取り組んでいる。
第二節 開発したオンボード光電気集積モジュールの概要
京セラ先進マテリアルデバイス研究所が開発したオンボード光電気集積モジュールの写真と仕様概要を図1に示す。送信と受信の各4チャンネルの信号線路を持つシリコンフォトニクスチップを4個搭載することで、16チャンネルの入出力機能を持つモジュールを開発した。チャンネル当たりの伝送速度は32Gbpsを保証している。したがって、一つのモジュールで、512Gbpsという伝送帯域を持つこととなる。ユーザー側のマザーボード上に電気コネクタを介して本モジュールを搭載するオンボード型とすることで、信号入出力用プロセッサーの近傍に配置できるのが特徴である。
また、制御用ICとなるMCU(Micro Control Unit)や電源供給ICとなるDC-DCコンバータもモジュール上に実装されていることから、ユーザー側で制御・電源回路を構築する必要がなくなるのも特徴の一つである。
このモジュールには、京セラが長年培ってきた高速伝送基板技術が使用されている。具体的には、高周波特性、細配線化、多層化に優れたLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)材を用い、モジュールのサイズを43.5×30ミリメートルにすることができた。面積当たりの伝送量の指標である伝送密度は、0.39Gbps/平方ミリメートルと表すことができる。一方、現在のデーターセンターで広く使われているプラガブル型光モジュールの伝送密度は0.18~0.28Gbps/平方ミリメートルであるため、約2倍の高密度化が実現できたといえる。さらに、消費電力もプラガブル型の光モジュールよりも小さくできる。図2に示すように、1ビットの情報を送るための電力は15~18pJで、プラガブル型の約40%程度に抑えられている。
なお、32Gbpsという伝送速度は、コンピューター内の主要な信号伝送の標準規格であるPCI express(Peripheral Component Interconnect Express)の第5世代であるPCIe5.0に相当する。PCIe5.0は電気伝送を基準にして策定されたが、PCIe4.0に対して信号速度が倍になっているため、伝送距離の延長に対して技術的な課題が多い。伝送距離と比例して減衰する電気信号に対して増幅して復元する電気回路が必要となるが、その増幅回路によって電力消費が増えてしまう。そこで図3に示すように、開発した光モジュールを従来の電気伝送路の間に差し込み、減衰の少ない光信号に変換することによって、電力消費を増やすことなく10倍以上に伝送距離を延ばすことができる。
第三節 液浸冷却対応光モジュールとして
2023年10月に開催された展示会CEATEC2023(Combined Exhibition of Advanced Technologies)の京セラブースにおいて、液浸冷却可能な光モジュールというコンセプトで、本モジュールを展示した(図4)。液浸冷却とは、放熱フィンとファンを用いる空気冷却、ヒートパイプと冷却液を用いる液体冷却と並び、消費電力の高いコンピューター装置内の冷却方法の一つである。液浸冷却によって、データーセンターの電力消費は90%以上削減できるという試算もあるため、将来のデーターセンターには必ず普及していくと予想している。
今後、京セラ先進マテリアルデバイス研究所では開発品のさらなる高機能化と社会実装を目指すとともに、光電気集積技術を通した社会課題の解決に取り組む。〈筆者=京セラ〉