2020.04.09 ソーラーシェアリングの現状と課題 千葉エコ・エネルギーの萩原領専務に聞く
千葉エコ・エネルギーの萩原領専務
農業と並走できる発電事業の構築が鍵
新たな太陽光発電の担い役の一つとして期待されるソーラーシェアリング。農地の上部に太陽光発電設備を設置し、差した日光を発電と作物栽培とで「シェア」する手法だ。
広いネットワークを生かし、業界団体「ソーラーシェアリング推進連盟」運営事務局を務めるコンサルティング会社、千葉エコ・エネルギー(千葉市稲毛区)の創業メンバーの一人、萩原領専務に、今後の課題や、改正に向けた検討が進むFIT(固定価格買い取り制度)とのかかわりなどについて聞いた。
―地域での再生可能エネルギーの導入支援などを手掛ける珍しいコンサル会社が、設立に至った経緯を教えてください。
萩原専務 12年10月に、馬上丈司・現社長が起業して設立しました。当時、馬上社長は千葉大学で教えており、いわゆる大学発ベンチャーでした。
ただ、馬上社長の専門は公共政策。大学発としては数少ない文系出身者によるベンチャーで、珍しい立ち位置でした。エネルギーとのかかわりも、技術分野ではなく、地域や地方自治体政策を中心として取り組んできました。
創業時、私はまだ学生として参加しました。もともと馬上社長とは、大学内のサークル活動のようなグループで先輩、後輩の関係でした。そうした流れがあり、当社は、アカデミックな面を重視しています。
単純な営利や市場性の追求というよりも、学術的にきちんとエネルギーと地域の在り方を論じていくことを大切にしています。
―現在は、具体的にどんな事業に取り組んでいますか?
萩原専務 再エネ導入のためのワークショップを長野県や千葉大学などで開いたり、小中学校での出前授業も行ったりしてきました。
政策面にもかかわり、国会議員や省庁関係者の方々への再エネに関するレクチャーを依頼されたこともあります。
また、馬上社長は、年間50-70件の講演をこなすために、全国を飛び回っています。再エネの専門家として意見交換することが基本ですが、次第に海外での講演にも声がかかるようになりました。
ソーラーシェアリングは、土地の二重利用ですから、土地の面積が制約される地域では需要があります。アジアでは韓国や台湾の政府関係や大学などから招かれました。
土地の二重利用については、80年代ごろから欧州で研究されだしましたが、ソーラーシェアリング自体が国内で制度化されて始まったのは13年からで、まだ、体系化された研究はありません。
基礎をおろそかにしないという観点から、三重大学や千葉大学と共同研究を進めています。太陽光パネル設備下で影がかかる農地では、作物がどういう影響を受けるか、どれだけの日照が必要かなどを研究課題にしています。
そのほかにも研究者と連携し、全国の農業委員会へのアンケートやソーラーシェアリングの経済効果などの分析も行っています。
多面的に事業に取り組んでいますが、正直、利益を多く出し、事業を次々と拡大できているというわけではありません。研究や地域での活動を大事にしながら、太陽光発電施工業者の業界団体などとも関係を深めています。
公共政策を専門とし事業を行う当社などが施工業者や発電事業者として、経産省や農水省などの政策のカウンターパートとして新しい役割を果たすことを目指している形です。
―実際に、農地でソーラーシェアリングに取り組んでいますね。
萩原専務 当社は、18年4月から千葉市内の農地約1ヘクタールでニンニクを栽培しています。
コンセプトに掲げたのは「農業を化石燃料から解放する」。世界的なエネルギーシフトの流れの中で、農業は取り残されてきました。農業自体を再エネ電源だけで賄えるような仕組みづくりのため試行錯誤を続けています。
この農地で、移動式の蓄電設備を導入しようと、新しいプロジェクトとして費用をネット上で募る「クラウドファンディング」も試みました。
普段は電動農機のバッテリとして利用し、災害時などには地域の避難所などに運び入れ、住民らに活用してもらう計画。地域の賛同者に呼びかけたところ、高い関心を持ってもらい、20年2月までの2カ月間で約100万円が集まりました。
―ソーラーシェアリングの事業者は、農業経営としてもうまくいっていますか?
萩原専務 事業者を見てみると、多くが発電事業ありきになってしまっています。
歴史のある農地は日当たりが保証されていて、発電も問題ありません。低圧規模では千平方メートルあたり、穀物類では農業収入が10万円程度。
太陽光ではFITの単価にもよりますが、200万円近くに達します。同じ土地でも収入に20倍近くの差が出る。だから、どうしても太陽光事業が優先になってしまいます。
FIT単価が下がった場合、農業を維持するためにどれだけコストがかけられるかという課題が生じます。だから、農業はきちんと自立する必要がある。そのために、雇用や販路など地域の協力が不可欠になってきます。
事業者には農業振興や地域振興といった志が必要になってきますが、地域全体の課題である収益向上への施策として、ソーラーシェアリングが広がっていく余地は大いにあります。FITがあるからできていることと、そうでないことがあり、絵姿が変わってくるでしょう。
―なぜ、今ソーラーシェアリングに期待がかかるのでしょう。
萩原専務 再エネの適地が国内には少なくなってきています。造成せずに、大規模設備をドンと置ける空地は、もうほとんどない状況です。
一方で、使用電力を再エネで賄うことを目指す国際企業連合「RE100」などの広がりで、再エネ事業の必要性は急速に高まっています。
太陽光用として残っている用地は農地や傾斜地、池での水上型などしかなくなっています。ただ、池はそんなに多くはなく、傾斜地は景観や土砂災害などの問題を抱えています。
短期的に再エネを大きく増やすには太陽光に頼らざるを得ないということになれば、農地で大規模に増やすしかありません。農業と並列で走れる発電事業をつくっていけるかが、ポイントになってきます。
20年3月に公表された「農水省環境政策の基本方針」でも、「農林水産業の生産性向上と環境対策を両立するイノベーションの創出」の項目で、ソーラーシェアリング技術向上の推進が明記されました。
農水省全体の計画にも明確に位置付けられたわけです。今後は、農水省単独としても本格的に予算付けされていくことになるでしょう。