2020.05.18 エネルギーベンチャーの自然電力、風力発電事業を国内外で拡大

響灘地区で商用運転を開始した自然電力の風車

風車の足元には太陽光パネルが並ぶ風車の足元には太陽光パネルが並ぶ

臨海部にある自然電力の風車臨海部にある自然電力の風車

地場メーカーの製造協力のもと風車は完成した地場メーカーの製造協力のもと風車は完成した

フィリピン・カラガ地域で風況調査の準備をする様子(写真はいずれも自然電力提供) フィリピン・カラガ地域で風況調査の準備をする様子(写真はいずれも自然電力提供)

ノウハウ蓄積の取り組みや培った知見を生かす

 エネルギーベンチャーの自然電力(福岡市中央区)は、国内外で風力発電事業の拡大に乗りだしている。

 5月からフィリピンで事業計画150MW規模の大型プロジェクトが本格的に動き始めたほか、国内では2例目となる発電所の運転が始まった。

 環境アセスメントなどに時間がかかる風力発電計画だが、「ようやく実り始めた」(同社)と期待を込める。

陸上で最大の事業用風車を稼働

 風力などの発電所の開発・建設から運営、小売りまでを一貫して手掛けるのが同社の特徴。30年までに主力の太陽光と風力などに注力し、発電事業を計10GW相当に拡大させる目標を掲げる。

 5月から商業運転を開始したのが、北九州市若松区の響灘地区に建設した「北九州響灘風力発電所・太陽光発電所」。

 出力約5MWの風力発電で、風車の足元には約0.6MWの太陽光発電も併設する。同社としては、18年2月に完成した佐賀県の「唐津市湊風力発電所」以来2件目の風力発電所だ。

 響灘地区では、沖合に設置される洋上風力発電向けに設計した大型風車1基を陸上用に転用した。そのため、風車の高さが157mもある。

 同社によると、事業用として陸上に建設された風車としては国内最大という。北九州市は、響灘地区を風力の集積地とする構想を持つ。

 同社は「巨大な1基の風車に、足元の太陽光発電もあわせることで、空間の高い効率利用ができる。そのノウハウを蓄積する研究的な取り組みでもある」と狙いを語る。

 風力の年間発電量は約900万kW時を想定。発電所全体では一般家庭3120世帯分を発電でき、固定価格買い取り制度(FIT)で九州電力に売電する計画だ。

海外の大型計画が始動、地元に供給

 フィリピン・ミンダナオ島北東部カラガ地域では、地域に電力を供給する大型プロジェクトが動き始めた。現地で再生可能エネルギー事業に長く携わる建設コンサルタント会社などと共同で進めるほか、日本の環境省などの補助も受けている。

 同地域では、人口増加が進んでいる一方で、地域内に発電施設が少ないため、電力需要ピーク時などには他地域の石炭火力発電所から長距離送電され、高コストな電力が供給されている現状がある。

 同社などは、現地で16年から風速の度合いを測定する風況調査などを実施。年平均で毎秒7.1メートル程度吹くことを確認した。

 「日常的に風車が回る程度の風が吹き、十分に事業性が担保できると見込める」(同社)として、同地区の数カ所で風力発電所を建設し事業計画で計150MWに及ぶプロジェクトが構想された。

 青森県つがる市で4月に商業運転を始めた日本最大の「ウィンドファームつがる」(約120MW)を上回る規模だ。

地域のリソースを生かして再エネ拡大

 プロジェクトの第1弾として約33MWの風力発電所の計画が動き出した。4.2MW級の風車8基を設置し、年間の発電量約77GW時を見込む。発電した電力は地元の電力組合に売電する予定で、「地域リソース由来のベースロード電源として、地域の経済発展に寄与できる」(同社)とする。

 従来の石炭火力からの電力と比較して二酸化炭素の排出量を年間3万5350トン削減できるという。今後、詳細な設計を詰めて、数年かけて完工させる見通しだ。

 東南アジアには、送電網整備にコストがかかる島しょ部が多く、太陽光や風力、小水力などの再エネ導入の機運が高まっているという。

 日本風力発電協会によると、東南アジアでは、高い経済成長を遂げているベトナムで比較的大規模な風力発電プロジェクトが計画されている一方で、フィリピンなどでは、地産地消に近い規模が多いという。

 同社ブランディング&コミュニケーション部は「創業時から、国内で培った再エネの知見を、各国それぞれのリソースに合わせて適応、展開していく方針だ。今回のプロジェクトのように、地域に立脚して導入を推進できることは、大変意義がある」と話している。