2024.08.23 【ハイテクノロジー・コンデンサー特集】導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーの技術動向 日本ケミコン

導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーの最新技術動向を解説

1.はじめに

 導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーは新しいタイプのアルミ電解コンデンサーとして、使用温度が高く、環境温度の変化が大きい自動車向け電装部品を中心に採用が進み、近年では社会インフラ向け(通信基地局、AIサーバー)など、より幅広い分野で需要が広がり続けている。今回、導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーの特長・技術動向について、同様の基本構造を持つアルミ電解コンデンサー、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーとの比較を交えながら紹介する。

2.基本構造

 アルミ電解コンデンサーは、他のコンデンサーと比較して、①静電容量が大きく大容量・小形の製品化が可能であること②安価であることが評価され、長きにわたり電子機器の発展とともに成長してきた電子部品のひとつである。現在においては、「自動車/モビリティー」「ICT/通信機器」「産業機器インバーター/新エネルギー分野」「生活家電関連」など非常に幅広い分野の電子機器回路に不可欠な電子部品となっている。

 上記の特長は、①誘電体である酸化アルミニウム皮膜(陽極酸化皮膜)の比誘電率が高く、アルミニウム電極表面への高度な粗面化技術により比表面積が大きいこと②アルミニウムの価格が比較的安価なことにより達成される。

 アルミ電解コンデンサーの構造は内部素子、アルミケース、封口ゴムで構成される(図1)。内部素子はアルミニウム陽極箔(はく)と陰極箔をセパレーターを介して巻回された形状であり、陽極・陰極箔にはそれぞれ引出端子が接続されている。陽極箔の表面には酸化アルミニウム皮膜が形成されており、誘電体として機能する。この内部素子に陰極材料を形成した後、アルミケース、封口ゴムにより封止される。アルミ電解コンデンサーの陰極材料には電解液が使用され、この電解液が陽極・陰極箔と接することではじめて静電容量が発現する。電解液は酸化アルミニウム皮膜の修復性に優れることから、バイアス電圧印加時の漏れ電流が低く、700Vに達する高耐電圧な製品の実現が可能である。

図1 導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーの基本構造

 一方で、電解液はイオン伝導性であることから導電率が低く、内部抵抗(等価直列抵抗、以下ESRとする)が高く、ESR低減のためには製品サイズを大きくすることが必要となる。また、低温度領域においては電解液の導電率が著しく低下し、ESRが増加する。高温度領域においては電解液の蒸散によりドライアップに至ることで、製品性能が低下する、といった課題を併せ持つ。

 導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーは陰極材料に導電性高分子(PEDOT:Polyethylene Dioxy Thiophene)を使用している。導電性高分子は電子伝導材料であり、導電率は電解液と比較して1000倍以上高く、熱分解温度が300℃以上と熱安定性にも優れる(表1)。そのため、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーはESRの温度依存性が小さく、幅広い温度領域で安定した電気特性が得られる。同サイズのアルミ電解コンデンサーと比較して、低ESR化(高リプル電流)と高耐熱化・長寿命化が可能となった。このため、スイッチング電源の高周波ノイズ除去や過渡応答性を求められる電源のデカップリング回路等に幅広く使用されている。

表1 陰極材料の比較

 一方で、電解液を用いたアルミ電解コンデンサーと比べてアルミニウム酸化皮膜の修復性に乏しく、外部ストレスによる漏れ電流の増加や高耐電圧の製品化が困難であるといった課題を有する。

 上記、アルミ電解コンデンサーと導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーの課題を解決したのが導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーである。その陰極材料は固体の導電性高分子(PEDOT)と液体である電解液で構成される。導電性高分子材料については、従来の導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーの陰極材料と比較して優れた耐電圧性を有しており、形成方法の最適化によりさらなる信頼性向上を図った。さらに導電性高分子とのマッチングを考慮した電解液を新たに開発、皮膜修復性を付与することにより、さらなる耐電圧の向上と高信頼性を実現している。

3.導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーの特長

 以下に、導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーの特長を、アルミ電解コンデンサーと導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーとの比較とともに紹介した。

■低ESR特性

 図2に各コンデンサーのインピーダンスとESRの周波数依存性を示した。導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーは全周波数領域において導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーと同等のESR特性を有する。導電性高分子の導電率が十分に高く、ESR特性に対して支配的であるため、低ESRタイプのアルミ電解コンデンサーと比べて100kHz以上の周波数領域で10分の1以下と非常に低いESR特性を示す。

図2 各コンデンサーのインピーダンス・ESR周波数依存性 35V-47μF(φ6.3×5.8L)

■安定な温度特性

 温度特性においても導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーと同等のESR特性を示す。図3に各コンデンサーの100kHzにおけるESRの温度依存性を示した。導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーはアルミ電解コンデンサーに見られるような低温度領域におけるESRの増加は見られない。-55℃~+125℃の全温度領域(導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーは105℃まで)において導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーと同等の温度依存性を示す。

図3 各コンデンサーのESR温度依存性 35V-47μF(φ6.3×5.8L)

■高耐熱・長寿命

 図4に耐久性試験(125℃負荷)による各コンデンサーの特性挙動を示した。アルミ電解コンデンサーは電解液が蒸散しドライアップするため、容量低下やESR特性が上昇する。固体である導電性高分子は熱的安定性に優れることから導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーは導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーと同様に耐熱性が高く、特性も安定しており長寿命である。

図4 125℃負荷 耐久性試験 35V-47μF(φ6.3×5.8L)

4.技術動向

 ここで、当社の技術動向として新たに開発した製品について紹介する。

■高リプル電流対応「HXFシリーズ」

導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサー「HXFシリーズ」

 「HXFシリーズ」は、自動車用電装機器や通信・産業機器向けDCDCコンバーターやインバーターを主な用途として提案する高リプル電流対応の導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーである。

 「HXFシリーズ」の開発にあたり、導電性高分子材料による低ESR化技術に加え、高温度領域での安定性に優れた電解液の採用により、従来の高リプル電流対応「HXEシリーズ」の高い信頼性(125℃/135℃ 4,000時間保証、85℃85%RH2,000時間保証)を維持したまま、最大6,000mArms/100kHz(125℃、φ10mm×16.5mmL)の高リプル電流化を実現した。「HXEシリーズ」からリプル電流は約1.3~2.1倍となり、コンデンサー員数の削減など、特にモーター駆動周りに使用されるDCDCコンバーター、インバーターなどの回路ユニットの小型化による省スペース化や長寿命化の設計に適した製品となっている。

《HXFシリーズの主な仕様》
・カテゴリー温度範囲:-55℃~+135℃
・定格容量範囲:25WV~63WV
・静電容量:33~560μF
・製品サイズ:φ8mm×10mmL~φ10mm×16.5mmL(表面実装タイプ)
・耐久性:135℃4,000時間(リプル重畳)

■高容量・高リプル電流対応「HXKシリーズ」

導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサー「HXKシリーズ」

 自動車開発では、主要機能である「走る・曲がる・止まる」に加えて、「自動運転」「安全」「快適」などの重要性が一層高まっている。これらを実現するため、機能ごとに多くの電子制御回路(以下、ECU)が使われ、それぞれのECUにコンデンサーへの要望が寄せられてきた。近年では、省スペース、軽量化を目的として各ECUが統合されることにより「大電力化」「小型化」が急速に進み、搭載されるコンデンサーには「高容量化」「高リプル電流化」に対するさらなる性能向上への要望が強くなってきた。そうした要望に対応するため、高容量・高リプル電流「HXKシリーズ」を開発した。

 また、導電性高分子の利点である良好な低ESR性能、高温耐久性能などの高い信頼性は、社会インフラ(通信基地局、AIサーバーなど)用の電源回路設計にも適している。

 「HXKシリーズ」の開発にあたり、電極箔に当社開発の高容量陽極箔を採用。また、対向陰極箔の最適化や両箔と相性の良い導電性高分子材料の採用により、従来の高容量対応「HXJシリーズ」同等の高信頼性(125℃ 4,000時間保証、85℃85%RH2,000時間保証)を維持したまま、同一サイズにて約1.2倍の高容量と最大1.5倍の高リプル電流を実現した。

《HXKシリーズの主な仕様》
・カテゴリー温度範囲:-55℃~+125℃
・定格容量範囲:16WV~35WV
・静電容量:82~1,200μF
・製品サイズ:φ6.3mm×5.8mmL~φ10mm×16.5mmL (表面実装タイプ)
・耐久性:125℃4,000時間(リプル重畳)

5.今後の展開

 さらなる高容量・高リプル電流に対応した新製品の開発を進める。現在、自動車分野において、より一層の電動化技術開発が進展し、また近年のAIサーバーの高集積化が飛躍的に進行しているなか、周辺の電子部品の一つである導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーのさらなる高性能化(高容量・高リプル電流化)が必須であることは自明である。当社の強みである電極箔・電解液・封口ゴムに代表される材料開発力やすべて自社設計で生産ラインを構築できる生産技術開発力、これまで長年にわたり培ってきたアルミ電解コンデンサーの製品開発力を結集することで、導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーのさらなる特性向上、信頼性の向上に挑戦する。
〈筆者=日本ケミコン(株) 技術本部 第二製品開発部 ハイブリッドグループ・牧野 猛氏〉