2020.06.26 【5Gがくる】<2>今、ワイヤレスが求められている
今年4月、英国で「新型コロナウイルスが5Gの電波を使用して移動し感染拡大させている」というデマが広がり、基地局のアンテナが複数破壊される事件が発生した、とBBCが報じた。
電波の正体とは
筆者もこの記事には驚いた。もちろん、電波がウイルスを運ぶことはありえない。電波は電磁波であり、周波数が高くなると光となる。
その波の特性をうまく利用して情報を伝搬することはあっても、物質(ウイルス)を運搬することはない。
例えば、池に石を投げ入れた時にできる波紋によって、枯葉が上下するだけで進まないのと同じだ。
しかし、「電波は目に見えないが、アンテナから出ているらしい」といった漠然としたイメージしか持たない一般の人たちにとっては、それが100%流言飛語であるとはにわかに断定できない。
残念ながら「電波」の正体は本紙の読者以外にはあまり知られていないと思う。実は、これが「ローカル5G」の普及における最大の課題である、と筆者は考えている。
以前、ある製造現場の責任者に工場内の無線(ワイヤレス)化を勧めたことがある。
工作機械を操作している従業員たちが、有線ケーブルの範囲内で窮屈そうに動いていたからだ。ところが、彼らからは開口一番「無線化は無理!」と首を横に振られてしまった。
その理由は、機械制御の多くは有線通信を前提としてシステムを構築しており、「得体の知れない無線」への移行は全く考えていないとのことであった。いくつかの現場を歩いたが、どこも同じ返答だった。
無線への不信感強い
スマホが普及したといっても無線通信への不信感はまだ根強い。特に、機械制御の無線化は想像以上にハードルが高い。
3密回避が不可欠
とはいえ、社会は〝ビフォアコロナ〟に戻ることはありえない。今、誰もが〝ニューノーマル(新しい日常)〟に向けて動きだそうとしている。
その中では社会はもとより、工場も3密を回避する取り組みが不可欠で、人を介さないスマートファクトリー化が喫緊の課題といっても過言ではない。
それには有線を軸にした設備では限界だ。無線を活用すれば効果的にスマート化できるようになる。
この現場とのギャップを埋めていくには、まず「電波とは何か?」を、誰でも分かるような話から始めるとよいのではないかと思う。
初めにローカル5Gで使うマイクロ波(Sub6と呼ばれる3.7ギガヘルツ帯、4.5ギガヘルツ帯)とミリ波(28ギガヘルツ帯)の電波の特徴をやさしく説明して十分に理解してもらい、その上で5Gの無線技術を解説すれば、5Gによって、光回線はじめ有線通信の代替となる超高速(eMBB)と超高信頼・低遅延(URLLC)を無線回線で実現できることへの理解が深まるのではないだろうか。
本連載では、無線が見えてくるような話から進めていく。
<筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問・国士舘大学非常勤講師 竹井俊文氏>