2024.11.22 【育成のとびら】〈38〉内定者育成でスマホ活用 隙間時間を積み重ねて「100%やりきる」

 本連載35~37回で、学生から社会人への転換点を迎える内定者は、「仕事についていけるか」「成果を出せるか」という不安があり、内定先の企業に対して「業界知識や専門スキルを教えてほしい」「社会人の基礎を教えてほしい」とサポートを求めていることを明らかにし、解決策について考察してきた。

 一方で企業側は、まだ学生である内定者への適切なアプローチ方法に頭を悩ませているのも実情だ。今回、内定者が抱える不安をなくすために具体的な施策を打ち、成果を上げている企業の事例から、企業側のアプローチの方向性を探ってみたい。

形骸化した育成

 紹介するのは、スマートフォンという若者にとって身近なツールを使い、ビジネススキルや知識のインプットとマインドの土台作りに成功した情報通信業企業だ。

 この企業は従来、入社までの間にビジネスの基礎知識を付けてもらう目的で、新聞を内定者の自宅に送付し、入社前にビジネス検定を受けてもらっていた。しかし合格点数など明確なゴールを定めていなかったために、取り組み自体が形骸化してしていた。

 同社は社員に継続的な学びや成長を求めていることから、内定者育成においても継続的にステップアップできる仕組みを模索していたという。

スマホアプリ導入

 そこで目を付けたのがスマホ用のアプリだ。知識・スキルのインプットを目的として内定者向けのスマホ用ビジネススキル学習アプリの導入を決めた。内定者は、アプリを通してビジネス基礎知識や思考力など、約200コンテンツを入社までの数カ月間で学ぶことが課せられる。

 総数は多いが、各コンテンツにかかる時間は3分ほど。日常生活や学業の隙間時間に取り組みやすく、ポイントごとにクイズやまとめテストがあり、成長の手応えもつかめるのが特長になる。

 会社は管理画面で一人一人の進捗(しんちょく)状況を把握し、進捗が芳しくない内定者には、リマインドメッセージ(再通知)を送るなど、全員が100%完遂できるよう継続的にサポートした。

マインド醸成も

 アプリ導入後は成果が着実に出てきたという。入社前に全員がアプリを完遂しているため、新入社員研修ではアプリで学習した内容を配属先の実務でどのように生かすのか、という観点でアウトプット(実践)に注力できるようになった。

 実際に取り組んだ内定者からは「スマホで学習できるので、電車の隙間時間などで取り組めた」など、アプリによるハードルの低さを歓迎する声も上がった。

 事前学習の効果についても「知っているようで知らないことがたくさんあったので、入社前に勉強しておいてよかった」「ビジネス文書の書き方など、内定期間中に一度目を通していることで、入社していきなり先輩に説明されるより、頭に入りやすかった」という前向きな意見が多く出た。

 マインド面での変化も見逃せない。内定者からは「基礎知識を学べたこともよかったが、気持ちの準備ができたことが大きかった。社会人としての覚悟、責任を理解した上で入社式を迎えられた」という感想も。人事部門では「アプリ導入後、入社日には社会人になる準備が既に構築できている人が増えた」とみている。

継続しやすさがカギ

 知識・スキルのインプットにおいて、スマホという身近なアイテムを活用することで内定者が継続しやすい取り組みとなった。

 入社前にアプリの完遂という明確なゴールを示し、会社が継続的に応援することで、精神面においても社会人になる準備を整えられた好例と言えるだろう。

 次回から、2024年の管理職意識調査の結果に基づき、管理職の今を探っていく。(つづく)

 〈執筆構成=ALL DIFFERENT〉

 【次回は12月第2週に掲載予定】