2025.01.14 【新春インタビュー】シャープ 沖津雅浩代表取締役社長執行役員兼CEO
新カテゴリーの商品で市場を創造
―2024年は、非常に大きな変化があった年だと思いますが、振り返られていかがでしょうか。
沖津 6月の株主総会を経て社長に就任しましたが、会社組織においても、7月1日付で、シャープの生え抜きメンバーを中心に執行する体制となりました。ブランド事業をますます大きくし、デバイスは利益の出るものに特化して規模を追わないという中期経営方針を打ち出し、それに基づいて今まで執行してまいりました。おかげさまで、上期(24年4~9月)の決算では2年ぶりの営業黒字を達成、最終黒字も確保するなど、良いスタートを切ることができました。
ただ金額はまだわずかなものですので、これからもっと大きな目標を目指して、しっかりと数字を積み上げてまいりたいと思います。
―ブランド事業をどう強化していきますか。
シャープらしさを追求
沖津 既存事業は、しっかりシェアを確保していくことが大切です。家電事業の場合、他社がまねをするようなシャープらしさをもっと追求していく必要があります。当社が他社の後から出していくのではなく、先に出して他社がまねをする家電を出していかなければシェアも上げられないと思います。
コロナ禍では部品の調達などで苦労しましたが、今では部品も潤沢に入るようになりましたので新規開発への課題もなくなりました。もう一度好調だった2000年代初頭のころに戻していかなければなりません。
まず投資の問題より先に皆が危機感を持って意識を変えていかないと国内で事業を続けることは難しいと思います。
―どのように変わってほしいですか。
沖津 チャレンジしてもらいたいですね。私も技術者出身ですから、前からの延長で普通にルーティンワークを続けることほどラクなものはないことを知っています。他社に負けているところは、次の年は必ず勝つという気持ちで臨むことが重要です。
小物商品は戦略が当たれば比較的シェアが取りやすい市場です。例えば掃除機ですが、日本市場に参入した外資系メーカーが4~5年でシェア20%を取り第3位に浮上しており、当社も3カ年計画で20%を目指せと号令をかけているところです。
エアコン、冷蔵庫、洗濯機といった大型家電の場合は生産能力などの条件もあるので、一気にシェアを上げることは難しいですが、掃除機などの小物商品では思い切った目標を立てて進めなければ、事業を続ける意味がないと思います。電子レンジでも国内の競合は大手4社ですから、金額シェアを最低25%は取らなければなりません。いかに付加価値の高い商品を買っていただくか、お客さまのニーズを的確につかみ商品開発することが重要だと考えています。
新しいカテゴリーにも挑戦しなければなりません。市場を創る商品を作っていくことが必要です。空気清浄機や掃除機、小物調理家電は、外資系も含め参入メーカーが多いですから、同じ商品で競争するより新規カテゴリーで市場を創ることが競合に勝つために必要です。シェア拡大も重要ですが、一年に何か一つ新しいカテゴリーの商品を出すことにも挑戦していきたいですね。
新カテゴリー商品として、近年では「ヘルシオ ホットクック」がありました。発売から2、3年は我慢の時でしたが、コロナ禍で内食ニーズが高まり、自動調理の便利さをご理解いただけたことも重なって、一気に伸びました。シャープらしい商品の一つと思います。
―空気清浄機でも新しい切り口の商品を開発されました。
空気は〝見る〟時代
沖津 空気清浄機では新しい使い方を提案するほか、B2Bに力を入れていくことを考えております。〝空気は「見る」時代です。〟というキャッチコピーで、改めて提案を強化しております。また、建築家の隈研吾氏が率いる事務所とコラボした空気清浄機も出すなど、空気清浄機トップメーカーとして新たな試みにもチャレンジしています。
プラズマクラスターの新たな用途開拓も進めていきます。とりわけB2B用途ですね。鉄道、自動車以外にも幅広い分野への普及に力を入れます。プラズマクラスターには静電気除去という特長があることから、生産関連への導入も強化していきます。
―シャープらしい商品とはどのようなものですか。
沖津 ブランド事業を強化していく中で、シャープらしい尖(とが)った商品というのは、お客さまが何を欲するかに応える商品だと考えています。AIoTのような技術はそれを具現化する手段の一つです。B2Cではお客さまに喜んでいただける商品こそがシャープらしい商品だと考えています。解決するべき課題は多いと思いますが、そこにAIが必要なら活用していきます。
そして、お客さまが欲しい商品の開発にはマーケティングがより重要になります。現場を知ることが一層求められることになりますし、場合によっては異業種企業との連携も必要です。また、AIoT家電から収集したデータを製品開発に活用することも重要です。調理家電の分野では、どのような世代の方が、どんな料理を、どの季節に作ったかなどといった情報に基づいて、メニュー開発やサービス創出に生かしたいと考えています。
デバイス事業再構築でブランド投資へ
―「AQUOS」の進化についてお聞かせください。
沖津 画質とアプリです。ハードは同質化しているため、ソフトで勝負をかけていきます。そのためにはAI(人工知能)による画像処理技術や画像認識技術に磨きをかけ、ユーザーに新たなテレビの楽しさを提案していきたいと考えています。AIoTでつながるテレビのデータをどうビジネスにしていくかを考えていく必要もあります。発想を変えて臨みたいですね。もちろん国内テレビ市場でシェアを25~30%は維持しておくことは必要です。
スマートフォンについては、当社の事業は99%が日本市場ですので、台数が伸びない中で、やはり台数シェアを上げるとともに付加価値モデル比率を上げないといけないと考えます。かつてケータイにカメラを搭載してシェアを伸ばしたように、何か新たな機能へのチャレンジが必要です。
―スマートオフィスが好調に推移していますね。
米国でのシェア上昇
沖津 コロナ禍が落ち着いてオフィス回帰が始まったころから、米国でのシェアが上がりました。今後はハード売りと並行してオフィスソリューションの販売に力を入れていきます。これまでこの事業では複合機の代理店を買収して事業拡大を図ってきましたが、これからはITソリューション関連の会社を買収し、その販路で複合機とともにITオフィスソリューションも販売していくといった形に切り替えていきます。事務所の中のサービスを全て請け負い、企業のお困り事を解決するソリューションを提案していきます。
PC(パソコン)につきましては、ウィンドウズ11への切り替えがあったことから好調でした。今後は反動対策をどうしていくかが重要です。XRグラスなど周辺機器の開発にも力を入れるとともにロボティクス事業と一緒になり、オフィス・工場関連で販売・開発体制を強化していきたいと考えています。
―デバイス事業に関して、現在の進捗(しんちょく)と今後の見通しをお聞かせください。
沖津 大型液晶の生産は8月末に停止しました。3月までに液晶パネルの在庫を売り切って事業を終息させます。これにより赤字幅も大きく縮小できるようになります。今後液晶事業は中小型に特化して適正なキャパと人員配置を図りたいと思います。
それ以外でカメラモジュールと半導体は、事業を続ける上で継続的に投資に回すキャッシュが必要ですので、ここでは鴻海の力を借りて、事業譲渡することが一番事業拡大につながると考えました。
デバイス事業の25年度での黒字化は難しいですが、不採算事業の撤退、縮小で再構築を進めてまいります。デバイス事業への投資が減った分は、ブランド事業の開発投資、新規事業開発に充てていきます。
研究開発では、5年後の将来を見据えたEV(電気自動車)とか生成AI、通信技術に本社の予算で集中投資を図っています。昔(80~90年代)の当社の緊プロ(緊急プロジェクト)を進化させたイノベーションアクセラレータプロジェクト(通称Ⅰ-Pro)を5月から始動いたしました。全社から最適人材を招集し、新規事業の早期立ち上げ、事業化を目指しています。
―堺工場はどうなりますか。
沖津 現在、AIデータセンターへの転用に向けてソフトバンクグループとKDDIに譲渡するということで進めております。その中でデータセンター事業で連携できないかという話をしております。われわれが熟知する工場の施設メンテナンスやデータセンターを活用した新しいビジネスなどを検討しております。このために24年7月にはAIデベロップメントという専任組織を立ち上げ、専任の役員も配置しております。また、本社工場棟の積水化学工業への売却に合意しました。
EVとAI、通信の領域で成長
―テックデーではEVが評判でしたね。
沖津 市場参入に向けてさまざまな検討を進めているところです。当社はEV製造に参入するわけではなく、シャシーは鴻海のものを使いますので、車体製造の大きな投資は考えていません。LDK+という、車中の快適な環境や、エネルギーシステムの端末として活用できる内装部分を開発し、家をまるごとエネルギーマネジメントに組み込みつつ、移動可能な超大型家電として提案し、住宅メーカーや家電量販店での販売を模索するという構想で、事業化の可能性を探っております。
昨年のテックデーでは協業に向け、幅広くお声掛けいただくこともできました。これからの時代、当社一社でできることは限られておりますし、一緒にできることは協業でやっていきたいと考えています。
―新規事業と合わせ、期待事業についてお聞きします。
沖津 白物家電事業につきましては、海外事業の拡大に力を入れ、早く海外比率を6割まで高めることをやり切ります。今後成長が見込めるアフリカではエジプトのエルアラビ社と、欧州はベステル社と組んで事業成長を目指していきます。それ以外の所は当社独自で進める形でグローバル展開していきます。特に普及率が100%に達していないアジア市場ではさらなる拡大を目指します。北米の調理家電では商材、販路を広げ、キッチンをまるごとシャープでそろえられるラインアップとAIoT活用の特長を強化していきます。
エネルギーソリューションでは、付加価値のあるエネルギーマネジメントで日本中心の事業に集中します。脱炭素に向けたさまざまな政府支援に合わせ、それに見合った商材を投入し、シェアを高めていきたいです。
将来的にはEVとAI、通信(ビヨンド5G)の領域での成長を目指します。生成AIを活用したビジネスとしては、まずB2B分野で会議システムなどにAIを活用して事業の拡大を目指します。また生成AIのコア技術であるCE-LLM(エッジAI)を開発中で、これは家電だけでなくオフィス商品をさらに便利にできる要素を秘めています。お客さまニーズをきちっと分析してどういう形でCE-LLMを活用するかを詰めていきたいと考えています。
通信技術関係では、既に低軌道衛星用の受信アンテナと受信ソフトの開発が完了し、船舶での事業化が間もなく始まるところまで来ています。さらに他の分野への導入も並行して進めています。
―改めて25年に臨む思いをお願いします。
沖津 構造改革を24年度にきちっとやり切って、シャープ再スタートの年といたします。再生に向けた初年度は一番重要な年であると認識しています。特に上期は大切ですね。覚悟を決めて臨んでまいります。
(聞き手は電波新聞社 代表取締役社長 平山勉)