2025.05.17 政府が「教育DX」ロードマップの策定へ 生成AIの効果的な活用も

DXで実現する教職員の指導のイメージ 出所:「教育DXロードマップ(案)」(デジタル庁など)より引用

DXで実現する学習環境のイメージの1例 出所:「教育DXロードマップ(案)」(デジタル庁など)より引用DXで実現する学習環境のイメージの1例 出所:「教育DXロードマップ(案)」(デジタル庁など)より引用

教育DXの関係施策の相互関係 出所:「教育DXロードマップ(案)」(デジタル庁など)より引用教育DXの関係施策の相互関係 出所:「教育DXロードマップ(案)」(デジタル庁など)より引用

 政府は、教育分野のデジタルトランスフォーメーション (DX)に向けた道筋を示す新たな「教育DXロードマップ」を6月中旬にも策定する。今後3~5年間を視野にDXを促し、教職員の業務負担の軽減につなげるとともに、多様な学びを実現する環境の整備を目指す。急速に進化する生成AI(人工知能)にも触れ、学校の働き方改革や学習の充実に適切に生かす方針も示す。

 教育DXは、教育分野でデジタルを活用して新たな価値を生み出す取り組み。今回のロードマップでは、「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」という教育DXのミッション実現を目指してデジタル庁と総務、文部科学、経済産業の3省が連携して施策を進めるための青写真と工程表を整理するもの。同庁が2022年1月に策定した教育データの利活用に関するロードマップを基にこれまでの成果や課題などを踏まえ、中長期の目線で取り組みを精緻化。パブリックコメント(意見公募)を経て、今夏に策定し公表する予定だ。

多様な学習リソースを役立てる

 案によると、政府が定める教育政策の基本方針やデジタル社会の形成に向けたビジョンを重ね合わせ、「学ぶ人のために、あらゆるリソースを」というビジョンを明示したことが特徴。その上で、「教師」「ツール」「データ」というリソースを学習者のために生かせる環境を整える方針も明示した。技術の進展を踏まえ、「生成AIの適切かつ効果的な活用」という文言も盛り込んだ。

 その前提として初等中等教育段階の教師の負担軽減につながる第一歩を踏み出す必要性を強調し、「12のやめることリスト(デジタルに変えること)」を整理。リストには、電話で児童・生徒の連絡を受け付けることや、紙で保護者への調査・アンケートを行うことなどを盛り込んだ。

 ビジョンの達成に向けた重点施策と位置付けたのは、「デジタル化による校務や事務の負担軽減」「多様な学びのための学習環境の整備」「データによる学習者の自己理解と教師の見取りの充実」「生涯を通じて学びのデータを活かせる環境の整備」という4つ。さらに施策を細分化し、それぞれの工程表を29年までを視野にまとめた。

 既に多様な学びの実現に向けては、小中学校に1人1台ずつ学習用端末を配備する政府の「GIGAスクール構想」を追い風に環境づくりが進んできている。ただ、自治体や学校間で端末の活用率に開きがあるほか、学習環境に必要なネットワークの速度を確保する取り組みも途上にあるのが実情だ。

 そこで政府は案に、興味や特性、キャリアの方向性などが異なる学習者が1人1台端末から多様な学習リソースへアクセスするとともに、いつでもどこからでも誰とでも学習できる環境が整備する方針を掲示した。学習ツールについては、自治体が多様なツールを調達できるよう支援し、発達の段階に応じて自分に合ったツールで学べるようにするという。工程表には、1人1台端末や生成AIなどの活用に関する好事例の創出と横展開を促す道筋を示した形だ。

データを学習者の自己理解に

 政府は、こうした取り組みで得られた教育データにも着目。システムやツールを安全な環境で相互に接続し、標準化したデータを個人情報に配慮しながら適切に活用する仕組みを想定。例えば、学力や学習状況などをダッシュボードで可視化し、学習者と教師の双方に生かすシナリオを描いた。デジタル庁は「教育政策や実践にも資する教育データは、研究目的の利用でも生きてくる」と説明した。

 教育DXを関係省庁で促す背景には、子どもが生まれ育った環境や生まれ持った特性の多様化がある。ただ。全ての子どもたちが自分らしい学びを実現するための環境づくりは道半ばだ。文科省が小中学生を対象に2024年に実施した「全国学力・学習状況調査」で、自分に合った授業の是非を尋ねると、「当てはまらない」「どちらかといえば、当てはまらない」と答えた児童と生徒の割合はいずれも15%を超えていた。自律的な学習に自信が無い子どもの存在も浮き彫りになっており、こうした課題を多様なデジタルツールで解決する取り組みが望まれている。一方で教師の労働環境に目を向けると、在校時間が改善する傾向にあるものの、依然として厳しい勤務実態も存在している。こうした状況を改善するためにも、DXの推進が求められている。