2026.09.28 【業務用無線特集】デジタル簡易無線が普及拡大 IP・衛星連携で通信を複線化 MCA終了へ移行需要高まる
IP無線やAIトランシーバーなどを紹介するJVCケンウッドの展示ブース(5月に開催の「自治体・公共Week 2026」)
自然災害の頻発、インフラ設備の保守需要、人手不足を背景に、業務用無線の役割が高まっている。デジタル簡易無線は2023年の制度改正で周波数が拡大し、免許局では中継器と中継器間のIP接続が解禁された。IP無線や衛星通信も加わり、現場は一つの方式に頼らず、用途に応じて通信手段を組み合わせる段階に入った。
簡易無線局、13.1%増
電波産業会の「電波産業調査統計2024年度版」によると、簡易無線局数は19年度の132万4000局から23年度には149万8000局となった。4年間で17万4000局、13.1%増えた計算となる。20年度は136万5000局、21年度は141万8000局、22年度は143万1000局と、一貫して前年を上回った。
22年度の143万1000局から23年度の149万8000局へは1年間で6万7000局増え、直近でも伸びが続いた。
同統計は総務省の情報通信統計データベースを基にまとめたもので、数値は千局単位。パーソナル無線を含み、デジタル簡易無線だけを抜き出した統計ではない。販売額や出荷台数を直接表す数字でもないが、簡易無線分野の利用基盤が着実に広がってきたことを示す指標となる。
背景には、自然災害への備え、道路や鉄道、電力、工場などの保守需要、建設・物流・警備・イベント運営での即時連絡の必要性がある。複数の作業員へ一斉に指示を伝えられ、通話操作が簡単な無線は、スマートフォンが普及した後も現場の基幹連絡手段として需要を保っている。
制度改正で選択肢拡大
業務用無線の中で導入が広がるのがデジタル簡易無線、通称「デジ簡」だ。無線従事者資格は不要で、最大5Wの出力と一定条件下での外部アンテナ利用により、特定小電力無線より広い範囲をカバーできる。音声が明瞭で、秘話機能や個別・グループ呼び出しを使える点も業務利用と相性が良い。
制度は主に法人などの団体に免許される免許局と、個人でも登録できる登録局に分かれる。登録局は所定の登録手続きで導入でき、共通チャンネルを利用するため、比較的小規模な現場や短期間の利用にも向く。免許局は利用者を限定して運用でき、通信系統を管理しやすい。施設や事業所が専用性の高い通信網を構築する場合に強みを発揮する。
半面、電波が届く距離は地形、建物、アンテナの高さなどに左右される。都市部やイベント会場では利用者が集中し、同じチャンネルを使う他局との混信も起きる。導入時には出力の大きさだけでなく、必要な通話範囲、同時に動くグループ数、建物の構造を踏まえた設計が欠かせない。
増波で混信抑制、広域化
市場の転機となったのが23年6月の制度改正だ。免許局では通常通信用の周波数が10チャンネル増え、中継用には上り・下り合わせて20チャンネル、10組分が割り当てられた。中継器を介して電波の届きにくい場所を補い、工場、倉庫、地下設備、高層建物などで通話範囲を広げられるようになった。
さらに、中継器同士をIPネットワークで結ぶ運用も認められた。離れた事業所の中継器を接続すれば、各拠点の無線端末を同じ通話グループとして運用できる。地域ごとのローカル通信を維持しながら、本部と複数拠点を結ぶ構成も可能となり、デジ簡を大規模な業務通信システムへ広げる道が開けた。中継器利用とIP接続は免許局が対象で、登録局には適用されない。
登録局には陸上用52チャンネル、上空用10チャンネルの計62チャンネルが追加された。都市部で課題となっていた混信の緩和が期待されるほか、上空用はドローンやスカイスポーツなどでの利用を想定する。遠隔で送信を停止する機能や妨害防止機能も制度上明確になり、利用範囲の拡大と適正運用を両立させる環境が整った。
現場ごとに方式を使い分け
デジ簡が全ての現場に最適とは限らない。店舗、飲食店、小規模な工事現場では、免許も登録も不要で購入後すぐ使える特定小電力無線が根強い。最大出力は10mWと小さいが、音声の遅れが少なく、短距離で頻繁に指示を交わす用途に適する。中継器を使ったエリア補完や、2波を使う同時通話に対応する機種もある。
デジタル小電力コミュニティ無線は、142MHz帯と146MHz帯を使う18チャンネルのデジタル方式で、免許、資格、登録が不要。最大出力は0.5Wで、位置情報を音声とともに送れるGPS機能を備える。利用者がまだ少なく混信しにくい点も特徴だが、対応製品や導入例は限られ、地域活動やレジャーが中心となる。
免許不要の手軽さ、通信距離、即時性、専用性、導入費、運用費には方式ごとに違いがある。現場内の連絡には特定小電力、より広い区域にはデジ簡、遠隔地との連絡にはIP無線と、通話範囲と業務の重要度に合わせて選ぶ動きが強まっている。
IP・衛星が補完網に
IP無線は、LTEや5Gなどの携帯電話網を使い、距離を問わず一斉通話できる。専用端末に加え、スマートフォンへアプリを入れて使うサービスも増えた。基地局の通信圏内なら全国規模の連絡網を構築でき、営業所間の連絡、車両の配車、警備など広域に人員が動く業務に向く。
クラウドとの連携により、端末の位置確認、通話グループの変更、利用状況の把握、録音、緊急通知など、音声以外の管理機能も加わる。無線機メーカーは、近距離ではデジ簡などの業務用電波を使い、遠距離では携帯電話網へ接続するハイブリッド型も展開している。通信方式の違いを意識せず、現場と本部を結ぶ運用が競争軸になりつつある。
衛星通信も新たな補完手段として注目される。携帯通信事業者による衛星との直接通信サービスが広がれば、山間部、海上、離島など地上系携帯網が届きにくい場所で連絡手段を確保しやすくなる。ただ、利用できる端末、通信内容、空が見える場所などの条件があり、全てのIP無線が直ちに衛星へ接続できるわけではない。地上系通信が混雑、停止する災害も想定し、衛星を含む複数経路をどう組み合わせるかが重要となる。
MCA移行で複線化加速
高度MCAや800MHz帯デジタルMCAのサービス終了方針も、市場を動かす。MCAを使ってきた自治体、物流、交通、インフラ関連事業者では、端末更新だけでなく、基地局、指令卓、通話グループ、非常時の運用を含めた通信基盤の見直しが必要となる。移行先として、免許局のデジ簡と中継器、IP無線、両者を組み合わせたシステムへの関心が高まる。
選定では平常時の通話範囲だけでなく、停電時の電源、携帯網の混雑、屋内や地下での不感地帯、月額料金、免許・登録手続き、端末管理まで比較する必要がある。一つの通信網が止まった際に別の方式へ切り替えられるか、現場の操作を複雑にせず予備経路を確保できるかが、事業継続の視点から問われる。
端末では防水・防じん、耐衝撃性、騒音下の音声処理、Bluetooth、GPS、文字や画像の送信などの高機能化が進んでいる。今後は無線機単体の性能競争に加え、クラウドでの一元管理、遠隔設定、通信履歴の活用、異なる方式をつなぐゲートウェイなど、運用全体を支える提案力が市場を左右する。
現場内で自営網として使えるデジ簡を軸に、広域をカバーするIP無線、地上網外を補う衛星通信を重ねる。業務用無線は単一方式を選ぶ市場から、業務の重要度に応じて複数の通信手段を設計する市場へ移りつつある。制度改正とMCAからの移行を追い風に、端末、ネットワーク、運用サービスを一体化した需要が続きそうだ。










