2020.07.24 【5Gがくる】<5>「ミリ波」は新たな武器となるのか?(後)
「ローカル5G」が社会を変えるならば、織田信長の鉄砲に匹敵する新たな武器は何だろう……というテーマで、前回はローカル5Gの武器となり得る「ミリ波」のビームフォーミングについて見てきた。
後半は、4G(第4世代移動通信)で実現できない〝超高速(eMBB)〟を、ミリ波がどのように導くのか--を具体的に考察していきたい。
情報理論の父とも呼ばれるシャノンの定理「最大通信速度(通信容量)は帯域幅に比例する」に立ち戻って、その仕組みについて見てみよう。
まずは、「周波数を高くすると、周波数帯域幅(ヘルツ)を広くすることができる」という無線回路設計上の特徴があることを知っておきたい。
この「ヘルツ(Hz)」とは、データ通信に使う周波数の幅で、この幅が広いほどアンテナ間で伝送するデータ容量を大きくすることができる。
未使用帯域を確保
その点、ミリ波は4Gで利用されている極超短波やマイクロ波よりも比較的新しく使われるようになった周波数資源であるため、未使用の広い帯域を確保しやすいという特徴もある。
具体的に見てみよう。先行してローカル5Gに割り当てられたミリ波の28.2ギガ-28.3ギガヘルツに挟まれた部分の幅は、100メガヘルツもある。さらに、衛星通信事業者と調整する必要はあるが、後続する28.3ギガ-29.1ギガヘルツに挟まれた部分は800メガヘルツ幅もあり、実に広い。
加えてローカル5Gは自由度が高い。これらの帯域内でデータ通信に使う周波数帯域幅を目いっぱい広く取れば、最大通信速度を〝超高速〟にできるわけである。それでは、どれほど超高速な無線回線を構築できるか、計算してみよう。
5Gは、4Gと同じくOFDM(直交周波数分割多重)という技術を使う。OFDMはユーザーへ送信するデータを載せる電波(リソースブロックという一時的に割り当てられた周波数)を12個のサブキャリア(搬送波)に分割して並列伝送するため高速化できる。これは12台のトラックを同時に走らせて搬送できる容量を増やすようなものだ。
デジタル化が進む
これが28ギガヘルツ帯の5Gの場合は、サブキャリア間隔を4Gの8倍に当たる120キロヘルツまで広げられる。つまり、12台のトラック全てを超大型にすることができるわけだ。
それによって、周波数帯域は4Gの最大20メガヘルツ幅から、最大400メガヘルツ幅まで広げることができる(264リソースブロック時)。さらに、搬送波に載せるデータを6ビットに多値化する64QAM(直交振幅変調)技術や最大8レイヤの複数アンテナによって高速化するMIMO技術を採用すれば、下りの最大通信速度(理論値)は10ギガビット/秒にできる。これは、同様の技術を採用する4Gの10-20倍の超高速だ。
これなら、高精細4Kや超高精細8Kのライブ映像や高精細カメラによる現場のデジタル化なども進めやすい。ローカル5Gビジネスの大きな武器となるのは間違いない。
〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問・国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉