2020.10.23 【5Gがくる】<16>超高信頼・低遅延によるワイヤレスMCの実現 ②
5Gには「超高速(eMBB)」「超高信頼・低遅延(URLLC)」「多数同時接続(mMTC)」の三つの異なる要件があるが、3者は互いにトレードオフの関係にあるため、それぞれの特性を生かす三者三様のユースケース(利用例)が考えられる。
たとえば、交通制御や遠隔制御、医療といった人命に関わるシステムや、企業の事業継続に関わるシステムなど、故障や大きな遅延が発生すると社会に重大な影響を与える恐れのあるミッションクリティカル(MC)・システムの場合、従来はワイヤレス化という選択肢はなかった。
ワイヤレス化によって利便性が飛躍的に向上することが分かっていても、無線回線では十分に安心を担保するだけの高信頼性を実現し難かったからだろう。ところがURLLCの5Gによる無線回線が登場することによって、今までタブーであったワイヤレス化も選択肢の一つになろうとしている。
さて、このURLLCとは無線区間における「高信頼度」と「低遅延」の要件であることは前回述べた。具体的には、高信頼度要件「パケットデータ送信成功率99.999%以上」と、低遅延要件「ユーザーデータ送信処理遅延1ミリ秒以下」を同時に実現するということになる。
技術的に至難の業
しかし、無線区間で「高信頼度」と「低遅延」を両立させることは、二つの理由により技術的には至難の業なのだ。まず、端末(スマートフォンなど)に内蔵されたアンテナと基地局のアンテナ間を電波で結ぶ無線通信では、限られた「周波数資源(リソースブロック)」をユーザー間で共有し、繰り返し利用しながらデータを搬送する。
そのため、送信に時間がかかる場合がある。これが、電波ゆえに避けられない一つ目の「構造的な遅延」となる。5Gではこの問題をどのようにして解決しているのか、少し具体的に見てみよう。
今、ユーザーの一人がある周波数資源を使ってデータを送信しているとする。その間、ほかのユーザーは同じ周波数資源を使って自分のデータを送信できないのだ。そうした場合は、ほかの空いている周波数資源があればそこを使うか、なければ終わるまで待つしかない。
そこで誕生したのが、「送信時間間隔(無線でのデータ送信の際の時間軸の送信単位)」ごとに、送信するユーザーデータに周波数資源を割り当てる「スケジューリング」という仕組みになる。
データ載せる搬送波
物流トラックのスケジュール管理に例えると分かりやすい。ユーザーの貨物を載せるトラックに相当するのが、ユーザーデータを載せる搬送波と呼ばれる電波だ。搬送波は割り当てられた周波数資源とその帯域幅を持つ。トラックの大きさは搬送波の帯域幅に相当する。5Gではこのトラックの大きさを変えて「構造的な遅延」問題を解決しようとする。(つづく)
〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問・国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉