2020.11.04 【次世代放送技術をよむ NHK技研90周年企画】地上放送高度化方式㊤

伝送容量拡大などで地デジ同等の受信エリア確保

 放送衛星による4K8K放送が2018年12月に開始され、次は地上波による放送の高度化の動向が注目されている。

 地上波による放送は、衛星放送のような降雨減衰による遮断がなく、ローカル放送に適した放送ネットワーク構成を取ることができるなどの特徴から、NHKでは災害時にも安定して情報を届けることができる重要なメディアと位置づけている。

 地上デジタルテレビジョン放送(地デジ)は、地形や建造物などによる反射波がある環境においても安定してハイビジョンが伝送できるという特徴を有する。

 一方で、地デジは03年12月の開始から既に17年が経過しており、その間に、伝送技術や通信・インターネット関連技術も大きな進歩を遂げてきている。

 NHK放送技術研究所(NHK技研)は地上放送高度化方式を開発するに当たって、反射波に対する耐性や階層伝送など地デジが有する特徴を継承しつつ、最新の伝送技術を取り入れることで伝送容量の拡大を目指して、07年から研究を進めてきた。

 また、多重方式をMPEG-2 TSからIPとすることで、様々な伝送路や受信端末への対応を図り、個人向けサービスの充実を目指した研究開発を進めている。

 NHK技研が研究開発をしている地上放送高度化方式の変調は、地デジと同様にOFDMを使用。キャリア変調には、256QAMや1024QAMなどの多値変調とNUC(不均一マッピング)を導入した。

 また、誤り訂正符号には優れた復号特性を有するLDPC符号を導入して、誤り耐性を向上した。そのほか、シンボル長やパイロット配置などOFDMフレーム構造の最適化と信号帯域幅の5.57メガヘルツから5.83メガヘルツへの拡大などの工夫を行った。加えて、セグメントへの分割数を13から35へと細かくするとともに、部分受信階層へ割り当てるセグメントの数を従来の1に対し、1から9セグメントの範囲で任意に設定できるようにするなど、より柔軟な階層伝送の運用が実現できる方式とした。

 さらなる伝送容量拡大の手法として、送信に2アンテナ、受信に2アンテナを使用し、それぞれに水平偏波、垂直偏波を割り当てた直交偏波による2×2偏波多重MIMOにも対応している。本方式を用いることで安定したMIMO伝送が実現でき、これによりチャンネル帯域幅6メガヘルツ(1ch)当たり、最大伝送容量が100メガbpsを超える伝送が可能となる。

 一方、地上放送高度化方式への移行に当たって、受信アンテナや送信所など、現行の地デジの送受信設備を生かす場合、地デジと同等の受信エリアを確保しながら約1.7倍の伝送容量が達成できることを確認し、地上波においても4K放送などの高画質放送が実現できる見込みを得た。

 また、多重方式のIP化により、視聴者は放送や通信といった伝送路を意識せずに、様々なデバイスでコンテンツを視聴できることや、番組差し替えなど個々の視聴者に特化したサービスを受けることが期待できる。

(つづく)

 〈執筆者=伝送システム研究部 岡野正寛上級研究員〉

 (NHK技研90周年企画として、次世代放送技術3テーマ〈全6回〉を紹介していきます。毎週水曜日に掲載します)