2020.11.06 【5Gがくる】<18>超高信頼・低遅延によるワイヤレスMCの実現 ④
ニューノーマル時代のワイヤレス・ミッションクリティカル(MC)には「高信頼度」と「低遅延」の両立が求められる。
前回、電波環境によらない「構造的な遅延」については、サブ6やミリ波といった、周波数の高い電波ならではの「広帯域化」によって「低遅延」を実現していることを述べた。
その一方で無線通信の「高信頼度」を実現するには、電波状況の悪化などで正しく受信できなかったデータを再送し補完する処理が欠かせない。ところが、データの再送回数が増えると、遅延はその分大きくなってしまう。
この電波環境によって左右される「再送による遅延」は一見、「高信頼度」と二律背反のようにも思える。5Gではこの課題をどのように解決しているのだろうか?
再送の手順はこうだ。受信装置は一定時間内にデータを受信できなかった場合、あるいは受信エラーが発生した場合に「NACK(否定応答)信号」を送信装置へ送る。この信号を受け取ると送信済みのデータからエラーデータを再送し補完する仕組みだ。
分かりやすく例えてみたい。今、未知のウイルス感染を防止する遠隔手術をしているとしよう。ここでは手術室から離れた場所にいる外科医が操作する装置(手術映像データ受信装置)を〝未知子〟と呼ぶことにする。
未知子は絶対に失敗したくないので、高精細かつ高信頼度の手術映像が欲しい。「URLLC(超高信頼・低遅延)」の高信頼度要件を満たすならば、まずは送信する映像のフレーム画像がたとえ膨大であっても、パケットの送信成功率(再送分含む、未知子側からみると受信成功率)99.999%以上を実現しなければならない。
高い成功率で送信
非常に高い成功率でデータを送信しなければならないため、未知子は「今、受信エラーが起きたわ。手術映像として使い物にならないから今すぐ再送して!」と、手術室の送信装置へ知らせることになる。
これがNACK信号だ。送信装置は未知子からのNACK信号を受けると、送信が一段落したところで送信済みの控えからデータを取り出して再送する。しかし、この方法では電波状態が悪くなるたびに、NACK信号による再送が何度も行われ遅延がさらに大きくなってしまう。
そこで未知子は「それならあらかじめ同じデータを複数、繰り返し送ってくれる? 一つ目がダメだったら二つ目を使うから」と送信装置へ解決策を指示する。これが「データ繰り返し送信」だ。
実際、5Gではこの「データ繰り返し送信」によって「再送による遅延」の直接要因となるNACK信号を極力回避している。もっとも、同じデータを繰り返し送信するので送信効率は低下するが、送信速度自体が高速になっているので遅延に大きな影響は与えない。
高信頼度と低遅延
こうして「高信頼度」と「低遅延」の両立という難題をクリアし、ワイヤレス・ミッションクリティカルを実現しているわけだ。
とはいえ、そもそも信頼性と遅延が電波環境によって左右されないようにできないものだろうか−−と考えてしまう。
その解は「ローカル5G」にありそうだ。(つづく)
〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問・国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉