2020.11.19 変容しつつある「市民電力」売電価格下落や自家消費義務化 再エネ新電力との連携課題
1号機の発電設備を説明する、こだいらソーラーの都甲代表。小平市内のビルの屋上に設置されている
地域住民が主体となって再生可能エネルギーの発電事業に取り組む「市民電力」が変容しつつある。住民から寄付や出資を受けて太陽光などの発電所を設置・運営し、再エネが普及する地域の象徴的な存在となっていたが、国の制度変更の影響もあり、設置数の伸びは鈍化ぎみ。大手企業によるメガソーラーなどが増大する中、新たな事業形態の模索が始まっている。
7日、関東地方を中心とする市民電力が互いの活動などを発表する「首都圏市民電力交流会2020」がWeb上で開かれ、約100人が参加した。
報告した「こだいらソーラー」(東京都小平市)の都甲公子代表は「再エネで暮らす未来を引き寄せるための重要な視点の一つは、再エネ供給を志す小売り電力会社との連携だ。市民発電所の電気を市民に届けたいのは共通の願い。それには新電力に仕入れてもらうことが必要だ」と訴えた。
12年4月に設立されたこだいらソーラーは、出資などの方法で資金を集めた市民電力としては都内第1号とされる。市民電力はあくまで発電事業者。都甲代表らが、電力小売りを担う新電力との連携を強調するのには訳がある。
93年に宮崎県で始動
全国の市民電力が定期的に集まるイベントの事務局を務める「気候ネットワーク」(京都市中京区)によると、市民電力は93年に宮崎県で初めて始動。97年には滋賀県でも立ち上がり、それ以降、全国へと広がりを見せてきた。
かつては寄付を受けて事業を開始するケースが多かったが、再エネ固定価格買い取り制度(FIT)が12年7月に始まると事業の採算が取りやすくなり、出資などを募って事業を立ち上げる例が増えたという。
気候ネットワークの調査によると、12年に510基だった設置数は右肩上がりで増加。直近の17年1月の調査では、市民電力は全国に約200団体あり、太陽光を中心に発電所数が約1030基になった。都道府県別で見ると長野県が全体の3割と突出して多く、福島県や東京都が続いた。
だが、懸念されているのが増加数の伸びが鈍化している点。増加数がピークとなった14年は前年に比べて213基増えたが、16年は52基増にとどまった。
都甲代表が要因の一つと見るのは、FITの売電価格の下落だ。
こだいらソーラーは市民約150人から資金を募り、一定期間後に返却する。主に小平市内の建物の屋根を借りて建設した7基(出力計約100kW)全てが、売電収入を積み立てて返却するという同じスキームになっている。
だが、FITの売電価格は、12年度の1kWh当たり40円が、近年は3分の1程度に下落。一方、設置コストは初年度に建設した1号機は1kW当たり40万円、19年に新設した7号機は同22万円だった。設置コストは半分程度になったものの、売電価格の下落の度合いには追い付かない。
都甲代表は「人件費などのコスト分はそうそう削減できない。厳しさは増している」と話す。さらに「メガソーラーは規模のメリットで設置コストを抑制できるが、市民電力はなかなかできない。だが、売電価格の下落は一律。しわ寄せは零細の発電事業者にくる」と危惧する。
また、再エネ電源の「地産地消」をさらに進める観点から、6月に成立したエネルギー供給強靭化法などにより、50kW未満の低圧の場合、自家消費が30%以上でなければFIT認定されない仕組みになった。
新たな事業形態を模索
市民電力は発電した電気を全量売電し、集めた資金を一定期間後に返却する事業計画が多い。都甲代表は「これまで通りの事業計画ではFIT認定を受けられない。新電力などと連携した仕組みづくりが重要になってくる」と語る。再エネの普及に取り組む新電力を広くPRする活動に従事しながら、新たな事業形態を模索する。
一方、国の制度変更を柔軟な態勢で乗り切ろうとする動きも出てきた。
東京都新宿区の市民電力「イージーパワー」は15年4月設立。住民6人ほどの資金から始め、現在は山梨県や千葉県など7カ所(出力計約300kW)で発電する。さらに17年2月、電力供給に乗りだすため、新電力「グリーンピープルズパワー」も立ち上げた。既に都内を中心に約600人に電気を供給している。
東京都墨田区のマンションの屋上にも、小規模ながら太陽光発電設備や蓄電池を設置。玄関ホールや廊下など共有部分の電灯などを自家消費する一方、余剰分を需要家に供給するPPAと呼ばれるモデルも試みている。
「市民電力が持続可能になるポイントとして、消費者と直接つながることが重要だ。国の仕組みをなるべく気にせずに再エネを増やしたい」と両社の社長を務める竹村英明氏。
気候ネットワークの豊田陽介上席研究員は「市民電力は単純な売電事業では難しくなってきつつある」とした上で「自治体などが出資する地域新電力などと連携を深め、ローカルビジネスとして全体で収益を上げていく仕組みが必要だ」と指摘している。