2020.12.11 【5Gがくる】<22>5Gデジタルトランスフォーメーション

 最近、「DX」という言葉をニュースのタイトルでもよく目にするようになった。DXとは何の略語なのだろう。「D」はデジタルで、これは容易に想像がつくが「X」は何なのか-。実は、DXはデジタルトランスフォーメーションの略だ。

 トランスフォーメーションなら、DTになるのではと思うが、英語圏では「Trans」を「X」と略すことが多いためDXになっているようだ。さて、このトランスフォーメーションは日本語では「変換」だが、どちらかというと変革のほうが収まりが良い。つまりデジタルによる変革という意味になる。

新概念の用語

 そもそもDXとは、04年にスウェーデンのエリック・ストルターマン教授が提唱した新概念の用語だ。彼は「DXにより、情報技術と現実が徐々に融合して結びついていく」と述べているが、これをシステムとして実現するのが「CPS」だ。「サイバー・フィジカル・システム」の略だが、これも聞き慣れない言葉かもしれない。CPSは、私たちが住む現実の世界であるフィジカル空間と、コンピュータなどの情報技術の空間であるサイバー空間とをつなぎ、現実空間での課題を解決する仕組みのことだ。

デジタル化による現実空間の課題解決

 ここでいうサイバー空間とは常に我々の傍らで支援してくれるものだ。我々はフィジカル空間において様々な課題を抱えている。個人課題、ビジネス課題、社会課題、中には解決したくてもできない課題も多い。これらの課題を、サイバー空間を活用し解決に導くのがCPSであり、そこに使われるのがデジタル技術になる。

 では、誰が、どうやって解決するのだろうか?

 課題の中には、未知の因果関係や相関関係が潜んでいる場合も多い。例えば、諦めていた機械故障の予知が、ある部品のかすかな摩耗模様の変化で可能になったとか、全く無縁だと思っていた「〇〇をする人」に、ある商品をプッシュすると突然売れるようになったとか、嘘(うそ)のような本当の話がある。

 すなわち、課題解決の思わぬヒントがヒト・モノの膨大な変化情報、いわゆるビッグデータの中に潜んでいるわけだ。

 周りには様々な変化情報がある。行動履歴やクルマの走行履歴などの「位置情報」をはじめ、「発信情報」=SNSの動画や文字などの「発信情報」、健康や機械の正常/異常、経済/経営指標、気象などの「状態変化」、高齢化やインフラの劣化、地球温暖化などの「経年変化」がある。

 これらの変化情報をセンサーやスマホで収集し、ビッグデータを生産するのがIoTだ。そして、ビッグデータを学習して因果関係や相関関係を探し出し、課題解決の仮説(ヒント)を発見するのがサイバー空間のAI(人工知能)だ。

5GでAIへ転送

 ここで5Gの出番がくる。まず、5G(多数同時接続)で多数のセンサーから情報を集め、5G(超高速)で膨大なビッグデータをAIへ転送する。

 次に、AIによるデータ分析の結果を即座にフィジカル空間のヒト・モノへ戻す。停止が許されないミッションクリティカル制御の場合には、AIの判断をリアルタイムにロボットや機械、クルマなどへ戻さなければならないため、5Gの超高信頼・低遅延が不可欠となる。

 今後、5GはDX実現のためになくてはならない存在になっていくだろう。(つづく)

〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問・国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉