2020.12.15 配送ロボットが住宅街を走るパナソニックのスマートタウン

側面から商品を入れられる。正面の表情は走行時などに変化する

原動機付自転車としてナンバープレートを取得し住宅街を走る原動機付自転車としてナンバープレートを取得し住宅街を走る

遠隔管制センター。配送ロボからの映像やセンサー情報などを表示。メーン画面の下にある四角い箱のようなものはスピーカフォン遠隔管制センター。配送ロボからの映像やセンサー情報などを表示。メーン画面の下にある四角い箱のようなものはスピーカフォン

 パナソニックの工場跡地に建設されたスマートタウン「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(SST)」(神奈川県藤沢市)。そこでいま、配送ロボットを使った住宅街向け配送サービスの実証実験という国内初の取り組みが始まった。

 使用している配送ロボは、長さと高さが115センチメートル、幅が65 、車両重量120キログラムの小型車両。パナソニックが電動車いすを改良して開発したもので、原動機付自転車としてナンバープレートを取得し、公道を走る許可を得ている。それに準じているため、積載重量は30キログラムまでになる。

 11月25日から12月24日まで実施する第1フェーズの実証実験では、最大時速4キロメートルで走行する。勾配10度の坂を登坂する性能を持ち、4センチメートルの段差を乗り越えられるため、平地メーンの住宅街であれば、問題なく走行できる。走行環境にもよるが、バッテリで約3時間運行可能だ。バッテリが切れると一旦実証を終了して充電することになるが、電動アシスト自転車のようにバッテリを交換できるため、すぐに再開することもできるという。

 配送ロボは側面のドアを開けて商品を入れられる。21年2月から第2フェーズとして、実際に生活用品などを店舗まで自動で受け取りに行き、販売員に商品を入れてもらい、注文主にまで届ける配送サービスの実験を行う予定だ。その前段階として、60軒ほどの住宅が立ち並ぶ決められたエリアを巡回走行する実験を年内まで行っているわけだ。低速とはいえ公道を走るため、現状では安全面から保安要員を1人付けている。

 実験は午前9時から午後4時まで。「夜間も問題なく走れるが、まずは昼間に検証する」(パナソニック テクノロジー本部兼マニュファクチャリングイノベーション本部・小原英夫本部長)とする。

 第1フェーズでは、店舗前、住宅地、横断歩道などいくつかのポイントを設定し、走行時の課題を抽出することを狙う。特に人の行き来が多い横断歩道は現状、遠隔管制センターからの手動操作に切り替え、管制センターにいる担当者が目視で安全を確認した上で、ゲーム機のようなコントローラで配送ロボを操作する。遠隔操作中は側面上部が緑色に光る。自動運転中は青色だ。

 走行中は「発車します」「右に曲がります」などの音声を発しながら進む。周囲の人への注意喚起を含めた対応になる。

 配送ロボは、ライトをうまく使って表情が生まれるように工夫されている。マニュファクチャリングイノベーション本部ロボティクス推進室の安藤健総括は「生き物感が出るデザインでプロトタイプを作った」とし、地域に溶け込む愛くるしさを表現している。表情は走行時にも変化する。

 人とロボットの共生を狙ったもので、実験中は「近づかない子どもがいたり、囲まれることがあったりした。犬を連れた年配の方が質問してくることもあった」(モビリティソリューションズ担当・村瀬恭通参与)と反応はさまざま。こうした住民の反応もデータとして蓄積し、次のフェーズに生かしていく方針だ。

 第2フェーズからは、1台で実証している配送ロボを2台以上に増やし、実際に住民にサービスを体験してもらう。対象エリアも広げる予定。

 現時点では関連省庁から道路使用許可を取得していないため、あくまで2月からの開始予定とするにとどめているが、コロナ禍で広がる非接触での荷物・商品の受け渡しや、管制センターとの非接触対話の実証実験に取り組み、課題抽出や利用者の反応を探る計画だ。配送ロボは5、6台試作機があるため、状況に合わせて増やしたい考えだ。第2フェーズは2月から3月に実施を予定する。

 配送ロボは、LTE回線を使ってクラウド環境に接続し、遠隔管制センターとつながっている。管制センターにはサブ画面やメーン画面があり、音声通話するスピーカフォンと遠隔操作するコントローラなどが用意されている。

 画面には、配送ロボからの映像情報に加え、センサー情報などが表示されている。AI(人工知能)を使った操作アシストや、工場や車載で実績のあるセキュリティ対策も実装している。

 パナソニックは、今回の配送サービス実証実験を、21年度には有償サービスとして提供したい考えだ。自動配送ロボによる商品の買い回りサービスが実現すれば、住民の家事負担の軽減にさらに貢献する。

 サービス開始時には、見守りなど配送ロボを使った複数サービスを組み合わせたパッケージでの提供になる見込みだが、生活を豊かにするものとして今後に期待したい取り組みだ。