2021.01.13 【計測器総合特集】EV/PHVの計測事例多ch同時測定で開発効率向上

図3 インバータスイッチングタイミング測定図3 インバータスイッチングタイミング測定

写真1 ミックスドシグナルオシロスコープ「DLM5000」写真1 ミックスドシグナルオシロスコープ「DLM5000」

写真2 Rectズーム機能 操作例写真2 Rectズーム機能 操作例

写真3 波形パラメータ測定項目設定例写真3 波形パラメータ測定項目設定例

写真4 2台同時機能「DLMsync」写真4 2台同時機能「DLMsync」

写真5 高電圧差動プローブ「701927」写真5 高電圧差動プローブ「701927」

インバータやECUなど活用で省電力化と高効率化追求

はじめに

 近年、持続可能な社会の実現に向け、EV/PHV向けのモーター、インバータおよび太陽光発電装置などクリーンエネルギー関連の製品に対して、さらなる省電力化と高効率化が求められている。そのアプローチは、デバイスやアクチュエータなどのハードの改善だけでなく、ECUなどに代表されるマイクロプロセッサによるソフトウエア制御との組み合わせで、さらなる高効率化、省電力化に広がっている。

 EV/PHVの重要な要素であるインバータ・モーターとその周辺を含めた開発評価時における多チャネル同時測定による測定作業効率向上のソリューションを紹介する。

EV/PHVの構成要素

 モーター、インバータの搭載するEV/PHVは、バッテリの電力だけでモーター駆動し走行する。構成要素としては、バッテリ、インバータ、モーターである(図1)。その中でもインバータは、乗り心地に関わるモーターの柔軟な制御と、バッテリのエネルギーを効率良くモーターに伝えるという重要な役割がある。

 具体的には、三相電力を必要とするモーターを駆動するため、バッテリのDC電力を三相電力に変換しつつ、その電力制御を高度に行えるスイッチング素子を各相2組ずつ用いた三相出力インバータが用いられる(図2)。

 さらに、これら複数のスイッチング素子のオン・オフのタイミングをキメ細かく制御するマイクロコントローラ(ECU)がある。

インバータ

 インバータは、スイッチング素子で構成されており、それぞれの素子のオン・オフによって、電力変換、制御を行う。

 図2のような回路構成で、破線のSW1、SW2の1組が1相分を担い、これを三つ組み合わせることで三相電力変換を行う。SW1、SW2が同時にオン状態となるとバッテリをショートすることになる。これを避けるためスイッチングタイミングの確認が欠かせない。各信号に異常な電圧やパルス状の電圧変動がないかなどのスイッチングタイミング以外の波形の確認は重要である。スイッチング素子は6個あるため、スイッチ制御信号とその出力も観測すると、12チャネルを同時に測定できる波形測定器が必要となる。

ECU

 自動車には多くのマイコンと呼ばれる小型CPUと各種入出力デバイスなどをパッケージ化した組込み型コンピュータが搭載されている。自動車に搭載されているマイコンは特にECUと呼ばれる。コストと処理内容によって役割を細分化しており、自動車1台に多数搭載されている。

 インバータ・モーター部分のECUは運転者の車速加減速の指示と、自車の加速度、速度などのセンサー情報を解釈し、インバータへの制御信号をコントロールする。ECUはいわゆるデジタル信号の入出力を行うが、インバータ制御信号だけでなく、モーターからのフィードバック信号や運転者からの制御指示信号などを取り込むため、多くの入出力を持つ。

多チャネル測定の特徴

 以上のように、多数の信号によって制御される機能ブロックの評価には、多チャネル同時測定が有用となってくる。

 多チャネル測定の特徴として、次の長所がある。

 ▼多くのポイントを同時に測定することで、まれに起きる異常現象の見逃しが少なくなる。

 ▼異常現象に対する原因の因果関係が明確になる。

 ▼複数回に分けて測定する必要がなく、接続、設定の時間が削減できる。

 一方、短所としては次のものが挙げられる。

 ▼測定対象が小さい場合、多チャネルプロービングに工夫が必要となる。

 ▼一度の測定でのデータ数が比較的多量になり、解析のためのデータハンドリングに時間がかかる。

 近年はこれら短所を改善、工夫した測定器が提案されている。

最高サンプルレート2.5ギガS/s

ミックスドシグナルオシロスコープ「DLM5000シリーズ」

 前記のような課題を踏まえ、弊社では新しい波形測定器である、ミックスドシグナルオシロスコープ「DLM5000シリーズ」(写真1)を開発した。

 主な特徴は次の通り。

 (1)最高サンプルレート 2.5ギガS/s

 (2)ロングメモリー 最大500メガポイント

 (3)周波数帯域 350メガヘルツ、500メガヘルツ

 (4)チャネル数 8チャネル+32ビット、4チャネル+32ビット

 (5)タッチパネルによる直観的な操作性を実現

 (6)2台同期機能「DLMsync」(近日発売)

 これらの特徴について以下、説明する。

 (1)最高サンプルレート2.5ギガS/s

 8チャネル同時に高速に変化する電圧波形を的確に捕捉して、波形表示でき、ロングメモリーとの組み合わせで長時間の測定が可能となる。

 (2)ロングメモリー 最大500メガポイント

 組込みシステムの評価では、ソフトウエアコマンドによる比較的長い時間の動作と同時に、クロックノイズなど高速信号の波形を観測することがある。DLM5000は、全チャネル使用時、シングルで50メガポイント/繰り返しで12.5メガポイントの波形取り込みができるメモリーを搭載しているので、取りこぼしが少ない波形観測ができる。最大500メガポイントのロングメモリーは、2.5ギガS/sのサンプルレートでも0.2秒間の波形を取得可能となる。

 (3)周波数帯域 350メガヘルツ、500メガヘルツ

 DLM5000は、一般的な電気回路の波形測定評価に十分な周波数帯域性能を持っている。

 (4)チャネル数 8チャネル+32ビット、4チャネル+32ビット

 4チャネルモデルと8チャネルモデルを用意。最大で、アナログ入力8チャネルとロジック入力16ビット(オプション仕様でロジック入力32ビット)の同時測定が可能である。

 (5)タッチパネルによる直観的な操作性を実現

 波形のポジション移動やスケールの変更、カーソルの移動など、タッチスクリーンを使うことで波形から視線を離さず操作が可能。また、波形の一部をズームするとき、画面上で指を斜めにスワイプして領域を指定するRectズーム機能(写真2)を使うと簡単にズームアップできる。

 ダイアログに展開される選択肢を選ぶときも直接タッチすることで、セレクトキーによる煩わしさから解放される(写真3)。

 (6)2台同期機能「DLMsync」(近日発売)

 2台のDLM5000を専用ケーブルで接続することにより、最大でアナログ16チャネル、ロジック64ビットの同期測定が可能になる(写真4)。専用インタフェイスは本体に標準装備なので、専用接続ケーブルとオプション追加のライセンスキーを本体に入力することで、動作可能となる。測定波形はそれぞれのユニットで表示される。サンプリングクロックとトリガーは同期し、メモリー長、サンプルレート、アクイジション、横軸スケールなどの共通項目設定は2台間で連動する。

高電圧差動プローブ「701927」

 インバータの測定などパワーエレクトロニクスでの波形測定では、対象が接地されていないフローティング電位を持つ。オシロスコープは通常接地されており、通常のパッシブプローブでは測定できない。しばしば問題となるのが、ハイアーム側のVgsを測定する場合は、ソース側はフローティング電位でかつ、スイッチングによってその電位は常に変化している。このような場合、正しく安全に測定するためには、差動プローブでの測定が欠かせない。

 701927は、最大入力電圧1400V、周波数帯域150メガヘルツで、EV/PHV向けインバータの測定などに十分な性能を持つ(写真5)。

おわりに

 本稿では、EV/PHV評価の際に考慮すべき測定の課題とともに、それらを解決する弊社の新しいオシロスコープと高電圧差動プローブを紹介した。

 今後もお客さまの声を素早く製品開発にフィードバックさせ、弊社製品が各種省エネ機器の評価において貢献できるよう、努めていく。〈筆者=横河計測〉