2021.02.04 【二次電池特集】日本ガイシのチップ型セラミックス二次電池「EnerCera®」

[図1]EnerCera(上段:パウチタイプ、下段:コインタイプ)

1.はじめに

 Society5.0の実現には社会の至る所にIoTデバイスを配置することが求められるため、「メンテナンスフリー」のIoTデバイスが必須である。このメンテナンスフリーIoTデバイスは、「ワイヤレス」かつ「電源の自立(電池交換不要)」が求められる。これに向けて、様々なエネルギーハーベスティング(環境発電)技術や空間伝送型ワイヤレス電力伝送(WPT)技術が開発されているが、その一方でエッジAIのようにIoTデバイスにおけるエッジプロセッシングの高度化が進むと動作時電力が大きくなる。そこで、これに対するソリューションとして、日本ガイシでは「エネルギーハーベスティング技術+チップ型セラミックス二次電池EnerCera」により、ワイヤレス・電源の自立・エッジプロセッシングの成立を提案しており、既に様々な原理のエネルギーハーベスティング技術との組み合わせを検討している。

 本稿では当社が開発した従来のリチウムイオン二次電池とキャパシタの長所を併せ持つチップ型セラミックス二次電池EnerCera®の特徴とメンテナンスフリーIoTデバイス向けコンセプトを紹介する。

2.チップ型セラミックス二次電池EnerCeraとは 

 チップ型セラミックス二次電池EnerCeraはキャパシタとリチウムイオン二次電池の長所を併せ持つ新しい蓄電デバイスである。電極に当社独自の結晶配向セラミックス板を適用することで、超薄型・小型でありながら、高出力でBLE、Wi-Fi、LPWA(セルラー通信含む)モジュールなどの駆動が可能、安全性が高く、高耐久、長寿命でエネルギーハーベスティングやワイヤレス電力伝送での充電などに最適という特長を実現している。図1に示すように、EnerCeraには二つのタイプがある。上段がパウチタイプのEnerCera Pouchで、①ICカードなどに内蔵可能な厚さ0.45mmと超薄型で曲げ耐性(ISO14443-1に準拠)がある、②ICカードの標準的な製造方法であるホットラミネート加工(135℃)に唯一対応している、③非接触カードリーダーに対応した高速充電が可能なラインアップがある、といった特徴がある。なお、EnerCera Pouchは2019年4月から量産開始している。下段がコインタイプのEnerCera Coinで、①回路基板にリフローはんだ実装可能なコイン型電池(厚さ1mm~)、②定電圧充電が可能であり、充電ICが不要、③長寿命:期待寿命10年、といった特徴がある。国連勧告輸送試験UN38.3はEnerCera全ラインアップで取得しており、国際安全性認証IEC62133を一部のラインアップで取得済みで、順次取得予定である。

 次にEnerCeraのキーテクノロジーについて紹介する。その前に一般的なリチウムイオン二次電池について簡単に説明する。図2の右側は粉末塗工型電極の正極の断面模式図であり、電極活物質粉末を導電助剤とともに有機バインダーで結着した構造となっている。高温では有機バインダーが電解液と反応し結着力が低下し性能が劣化する。電極活物質は層状構造を持ち、Liイオンや電子が動きやすい方位があるが、電極活物質粉末は内部の微構造も方位がランダムで粉末同士も離れて配置されるため、Liイオンや電子がスムーズに移動する妨げとなっている。これに対し、EnerCeraは電極活物質のみで形成された独自の結晶配向セラミックス正極板を用いている。図2左側の模式図に示すように、Liイオンや電子が動きやすい結晶方位にそろえて(これを結晶配向と呼ぶ)焼結したセラミックスを正極板として用いている。このため導電助剤や有機バインダーは一切含んでいない。この正極板には無数の小さな穴が開いており、ここに少量の電解液をしみこませた構成としている。ほとんど固体のセラミックスで構成されていることから我々は半固体電池と呼んでいる。EnerCera Coinは正極だけでなく、セパレータ、負極も合わせたセラミック一体構造とすることでさらに熱に強く、耐久性の高い構造となっている。

図2]EnerCeraのキーテクノロジー

 図3にEnerCera Pouchのラインアップを示す。①大電流タイプ、②超高容量タイプ、③高温プロセス対応タイプ、④高速充電タイプの4種類がある。大電流タイプは放電ピーク電流(室温において、1秒間放電した場合の電圧低下が0.5V以下となる最大電流値)が500mAと、セルラー通信が可能なレベルの大電流を出力することができる。超高容量タイプはエネルギー密度を重視した設計であり、3種類のサイズがある。高温プロセス対応タイプはICカード製造プロセスで一般的なホットラミネーション(135℃)に対応している。当社調査ではホットラミネーションに対応している薄型のリチウムイオン二次電池は世界で当社製のみである(2021年1月28日時点)。大電流タイプ、超高容量タイプ、高温プロセス対応タイプは一般的なリチウムイオン二次電池と同じ材料系であり、公称電圧は3.8Vである。結晶配向セラミックス正極材をベースとし、設計を変えることで上述の特徴を出している。一方、高速充電タイプは負極材料を一般的なカーボン系から別の材料系にしているため、公称電圧は2.3V、充電率0%から80%まで約12分での高速充電が可能という特長を持つ。また、電流制限をする必要がなく、キャパシタのように定電圧充電が可能。充電IC(チャージャIC)は不要で、定電圧レギュレータを用いればよく、回路構成が簡素化できる。

[図3]EnerCera Pouchのラインアップ

作動温度範囲はマイナス40℃から60℃と広く、寒冷地や高温環境での使用が可能である。現在は高速充電を前提とした小容量のラインアップだが、高容量のラインアップの追加も検討している。

 EnerCeraの安全性については、電気的試験として過充電、過放電、過電圧試験などを行い、機械的試験として釘刺し、圧壊、折り曲げ、切断試験など、環境的試験として減圧状態での保持、水没、加熱など、IEC62133で定められた全ての試験項目で発火・爆発がないことを確認している。図4に超高容量タイプEC382704P-Cのいじめ試験の実際の様子を示す。折り曲げ試験では満充電状態で行ったにもかかわらず温度上昇はほとんど見られなかった。釘刺し試験でも釘により短絡した部分の温度が約6℃上昇しただけで電池は膨らむこともなく、発火・爆発もしなかった。以上からEnerCeraが非常に安全性に優れたリチウムイオン二次電池であることがおわかりいただけたと思う。

[図4]いじめ試験の例(EC382704P-C」

 次にEnerCera Coinのラインアップを図5に示す。高容量タイプ、高耐熱タイプはどちらも電子機器の量産プロセスに用いられるリフローはんだ実装が可能である。図6に高耐熱タイプのET1210C-Hの25℃と105℃での満充電状態での長期保存特性を示す。105℃という従来のリチウムイオン二次電池では使用不可能な過酷な高温環境下においても優れた保存特性である。高耐熱タイプは2020年8月からサンプル出荷を開始している。

[図5]EnerCera Coinのラインアップ
[図6]EnerCera Coin 高耐熱タイプ(ET1210C-H)の保存特性

 以上述べたように、半固体電池であるEnerCera Coinは液系リチウムイオン電池と同等以上の電池性能を有し、全固体電池並みの耐久性・耐熱性をもつ電池である。違う見方をすると、液系リチウムイオン二次電池とスーパーキャパシタの両方の特性を併せ持つ、新しい蓄電デバイスともいえる。スーパーキャパシタはエネルギー密度が小さく、同じエネルギーを蓄電するにはかなり大きなサイズとなってしまう。また自己放電が大きいため、エネルギーハーベスティング技術による微小な電力を蓄えるのには適していない。一方、バックアップ電源など、高温で長期間の耐久性が必要とされる用途にはこれまでリチウムイオン二次電池は使うことができなかったため、キャパシタを用いている例があるが、EnerCeraはこのような用途に対しても適している。

 図7はスーパーキャパシタとEnerCera Coinの電圧と蓄電容量を比較した模式図である。キャパシタはQ=CVの式のとおり、放電するにつれて電圧が下がっていくがEnerCeraはリチウムイオン二次電池であるので、放電末期まで公称電圧近傍の電圧を維持するため、IoTデバイスの動作電圧1.8~3.0Vの範囲において、キャパシタよりはるかに大きなエネルギーを安定した電圧で供給可能である。また、他の小型電池(一次・二次)に比べて内部抵抗が低いため、BLE、LPWAなどの通信に適した大電流放電が可能である。すなわち、キャパシタのように大電流出力可能、かつキャパシタと違い定電圧を維持可能な新しい蓄電デバイスである。

[図7]スーパーキャパシタとの比較

3.EnerCeraを搭載したメンテナンスフリーIoTデバイス

 あらゆる場所にIoTデバイスを設置するためには、電池交換も充電も不要なメンテナンスフリーの電源の実現が望まれる。さらに、耐環境性に優れ、長寿命である必要もある。図8にEnerCeraを搭載したメンテナンスフリーIoTデバイスのコンセプトを示す。EnerCeraの低自己放電、低抵抗、定電圧充電が可能な特長は、光や振動、温度差など環境の中にあるエネルギーを電力に変えて利用する、エネルギーハーベスティング技術との相性が極めて良い。EnerCeraとエネルギーハーベスティングを組み合わせて電源システムを構成すれば、長期間にわたってデータを送り続けるメンテナンスフリーの理想的IoTデバイスが実現する。通常、エネルギーハーベスティングで得られる電力は、μW~数mWレベルと微小である。そのままでは、無線によるデータ伝送などには使えない。EnerCeraを使えば、常時微小電力を蓄積し、データを収集・伝送する際に数十mWレベルの電力を一気に放出できるようになる。

[図8]EnerCeraを搭載したメンテナンスフリーIoTデバイスのコンセプト

 現在、日本ガイシでは、電源ICメーカー、エネルギーハーベスティング技術・空間伝送型ワイヤレス電力伝送(WPT)技術を有するメーカーなどと連携して様々な電源ソリューションを取り揃えている。パートナー企業との協業の成果は、国内外の展示会、当社のEnerCera特設サイト(https://enercera.ngk-insulators.com/)などで順次公開する。

4.まとめ 

 日本ガイシが開発したチップ型セラミックス二次電池EnerCeraとその適用事例について紹介した。EnerCeraは安全性、耐環境(耐熱性)に優れ、長寿命であり、小型・超薄型でありながら内部抵抗が低く高出力が可能であり通信機能を有するメンテナンスフリーIoTデバイス向けの蓄電デバイスとして最適である。IoTデバイスは今後のSociety5.0の実現のために普及が見込まれている。当社のEnerCeraが高機能化、小型化の一助となり、普及に寄与できれば幸いである。

     <日本ガイシ(株)>