2021.02.12 【5Gがくる】〈29〉5GにとってWi-Fi6は敵か、味方か? ③

 前回、地域の通信事業者などによるローカル5Gサービスの開始を後押しする「ローカル5G&Wi-Fi6ルーター」について述べた。

 他者の建物や土地越しにローカル5Gの電波を飛ばす場合に必要となる手法として挙げたもので、このローカル5G&Wi-Fi6ルーターにより超高速性を損なわずにユーザーの端末にデータを届けられるとみている。ただ、ローカル5Gと接続できるルーターは、キャリア5Gとは違ってローカル5G独自の周波数と仕様への対応が必要であるため、あまり世に出ていないのが実情だ。

 この流れにいち早く乗ってきたのがシャープで、昨年「ローカル5G対応ルーター」の試作機を開発した。同9月から実証実験などに向け提供を始めたこのルーターはローカル5Gのネットワークに接続でき、カメラによる映像やFA(ファクトリーオートメーション)機器、各種センサーによって収集したデータなど、大容量データを超高速で伝送できるという。

有線に切り替えも

 具体的に見てみよう。屋外のローカル5G基地局との通信には、19年12月に先行して割り当てられたミリ波の28.2ギガヘルツ-28.3ギガヘルツに加え、昨年12月の制度整備で新たに割り当てられたサブ6と呼ばれる4.6ギガヘルツ-4.9ギガヘルツと、ミリ波の28.3ギガヘルツ-29.1ギガヘルツにも対応している。

 屋内のユーザー端末との通信には、Wi-Fi6に加え、マルチギガイーサとも呼ばれる2.5GBASE-T有線LANとUSB3.0が使える。3者とも超高速なので、電波状態が悪くなれば無線から有線に切り替えることも可能だ。

 これがあれば、中小企業の工場などに設置したIoTカメラによる映像を、Wi-Fi6とローカル5Gによってクラウド環境へ超高速で伝送し、現場を短期間で効率良くデジタル化できるようになるだろう。

工場現場のデジタル化

 さて、ここでもう一度ローカル5G&Wi-Fi6ルーターの特徴を考えてみたい。このルーターはローカル5Gに対応していないユーザー端末であっても、Wi-Fi6を介してローカル5Gの超高速性をベストエフォートで利用できる。

普及進めば恩恵大

 Wi-Fi6の普及が進めば進むほど、このメリットは大きくなる。今後、同じようなローカル5G対応のルーターが増えてくれば、小規模オフィスやサテライトオフィス、テレワークの場所などでの4K/8K高精細映像によるオンライン会議サービスや、VR/ARによるバーチャルオフィスサービスといった、ニューノーマル(新しい日常)ならではのローカル5Gサービスが続々と登場してきそうだ。

 ノートPCやスマートフォン、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)などのユーザー端末は、フロアや部屋など小さなセル内(ルーターから吹くWi-Fi6の電波が届く範囲)での移動に限定される半面、ユーザーはローカル5Gを意識せずに、ローカル5Gの超高速(eMBB)が体感できる様々なサービスを利用できるようになる。やはり「Wi-Fi6」は味方に付けておいたほうがよさそうだ。(つづく)

〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問・国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉