2021.02.18 非圧縮フル解像度8K映像の無線伝送大阪大とロームが300G㎐帯のテラヘルツ波使い成功
[図1]300GHz帯テラヘルツ波を用いた非圧縮8K映像無線伝送システムのブロック図。オンオフ変調方式にて、24Gbit/sの伝送を可能とするテラヘルツ送信器-受信器リンク2チャンネル分と8K映像信号処理に関わる部分から構成される
概 要
大阪大学大学院基礎工学研究科の冨士田誠之准教授、永妻忠夫教授、Julian Webber(ジュリアン ウェバー)特任助教(常勤)、大学院生の大城敦司さん(博士前期課程)、岩松秀弥さん(博士前期課程)、Daniel Headland(ダニエル ヘッドランド)特任研究員(常勤)、大学院生の山神雄一郎さん(博士前期課程)、Alex Koala(アレックス コアラ)さん(博士後期課程)、基礎工学部学部生の伊豫田圭さんらは、ロームと共同で300G㎐帯のテラヘルツ波を用いることで非圧縮フル解像度8K映像の無線伝送に世界で初めて成功した。
次世代の移動体通信規格6Gでは、8Kなどの超高精細映像を低遅延かつ低消費電力に伝送することが期待されている。しかしながら、超高精細映像のデータ量は膨大なため、マイクロ波やミリ波で無線伝送を行う場合にはデータ圧縮を行う必要があり、それに伴う遅延や消費電力の増大が課題となっている。そのため、超高精細映像を非圧縮で無線伝送する技術の開発が求められている。
研究グループは従来のマイクロ波やミリ波では不可能な広い帯域を利用できる可能性がある300G㎐帯のテラヘルツ波に着目した。データレート48Gビット毎秒の非圧縮8K映像信号を2チャンネルのテラヘルツ波で伝送するシステムを構築し、その広帯域性を生かし、シンプルなオンオフ変調方式によって、8K映像の無線伝送に成功した(図1)。
この成果はテラヘルツ波の有用性を示す成果であり、Beyond5Gから6Gへの実現に向けた研究開発の動きが加速することが期待される。
研究の背景
20年3月には第5世代移動通信システム(5G)の商用サービスが開始され、その先の将来のシステムに向けBeyond5G(6G)に関する研究開発が活発化している。6Gが実現した暁には、超高精細な映像の無線伝送によって、仮想現実ともいえるようなリッチなコミュニケーションが遠隔で実現することが期待されている。そのためには、膨大なデータ量を有する高精細映像の伝送を可能にする超高速・大容量の通信を実現することに加え、遅延を抑えたリアルタイム性が要求される。また、様々な利用シーンで利活用するためには消費電力を低く抑制する必要がある。
18年12月に実用放送が始まった8Kスーパーハイビジョンは現実に迫る臨場感を実現しているが、これを現在の放送システムや5Gのシステムを用いて、マイクロ波もしくはミリ波で無線伝送する際にはデータ圧縮する必要があり、それに伴う遅延や消費電力の増大が課題になる。この課題を解決するには超高精細映像を非圧縮で無線伝送する技術が必要。
研究の内容
電磁波を特徴づける値として、周波数と波長があるが、一般に周波数が高いほど大容量の情報を伝送することが可能であり、テラヘルツ波はマイクロ波、ミリ波と比べて高い周波数を有する。冨士田准教授らのグループでは、300G㎐帯のテラヘルツ波に着目した。周波数差が300G㎐帯になるように設定した波長1.55マイクロメートル帯のレーザーペアの出力を強度変調器によって8K映像信号源で変調し、光電変換デバイスでテラヘルツ波に変換することで、テラヘルツ送信器を2チャンネル構成した(図1)。ここで、8K映像信号源として、4チャンネルの12Gビット毎秒の信号として出力される市販の非圧縮フル解像度8K映像コンテンツ(アストロデザイン社)を準備し、これを2チャンネルの24Gビット毎秒信号になるように多重化したオンオフ変調信号を用いた。無線伝送されたテラヘルツ波は共鳴トンネルダイオードを用いたテラヘルツ受信器で検波された後、2チャンネルから4チャンネルに分離され、HDMIケーブルを経て、8Kモニターに接続。以上のシステムを用いることで、48Gビット毎秒に相当する非圧縮8K映像のテラヘルツ波による無線伝送に成功した(図2)。
本研究成果の意義
超高精細映像の非圧縮無線伝送技術が、社会課題に直結する遠隔医療やテレワークなどの質の向上をもたらすとともに、超高精細映像のビッグデータを利活用したフィジカル・サイバー融合の高度化につながり、Beyond5Gから6G実現に向けた研究開発が加速することが期待される。
<資料提供:大阪大学>