2021.03.05 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<32>企業ネットワークをローカル5Gに移行する ①

 織田信長は、那古野城→清須城→小牧山城→岐阜城→安土城と、4回も居城を変えながら天下人に上り詰めた。「一所懸命」を第一とし、先祖代々の土地を死守することが美徳であった戦国時代の武将たちからすると、常識破りの革命児であったに違いない。

 特に、岐阜城と安土城は豪華絢爛(けんらん)さだけでなく、軍事と通商に欠かせない主要な街道を押さえる交通網の要衝でもあった。信長は、自ら城を築いて本拠地を次々と移すことによって、人・物・金・情報が流通するネットワークを常にグレードアップさせる、いわば〝成長戦略〟のパイオニアだったともいえるだろう。

DXを取り入れる

 時を戻そう。昨今、多くの企業においてビジネスの「デジタル化」が声高に叫ばれている。企業の〝成長戦略〟に欠かせないデジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)をビジネスの現場に取り入れようというもので、現実空間と仮想空間をデジタルでつなぎ、ビジネス革新を図ろうとする新たな動きが活発になってきている。

 DXを推進するに当たっては、現場に散在する様々なアナログ情報をセンサーやスマートフォンなどで収集しデジタル化することが第一歩だ。これらの情報を収集する仕組みをIoT(モノのインターネット)とも呼び、収集した大量のデータはビッグデータになる。このビッグデータを解析し、課題解決のための仮説を発見するのがAI(人工知能)になるわけだ。

 今、現場の情報を収集する手段として導入検討が進んでいるのが画像センサー(カメラ)の活用だ。撮影された映像データを集めディープラーニング(深層学習)などにより、画像分析を行い新たな知見を見いだす取り組みになる。

 例えば「オフィス」ではネットワークカメラのAI顔認識による勤怠管理をはじめ、カメラと位置センサーなどを活用すれば、従業員の移動を把握し行動分析もできる。新型コロナウイルスの濃厚接触者追跡もでき、コロナ禍中のテレワーク推進と感染拡大防止を支援するだろう。

 「工場」における工作機械の刃具など、外観画像のAI異常検知による予防保全は、設備稼働率を向上させる。また「病院」における患者のリアルタイム映像や検査画像によるAI診断は、遠隔医療などを促進し地方医療の人材不足解消として期待されている。

 仮に、これらのAIに高精度を求めるならば、より高解像度な高精細映像が必要となる。4K/8K超高精細映像ならベストだ。そのためには高精細カメラが必要となるのはもちろんのこと、大容量データとなる高精細映像を高速に転送する企業ネットワークが不可欠で、超高速な自営網(プライベートネットワーク)が必要となる。

旧態依然で自営網

 ところが企業ネットワークの多くは、旧態依然とした自営網のままというのが現状だろう。例えば有線ネットワークである「固定電話網」や初期の無線ネットワークである「PHS網」が今でも現役で稼働している。両ネットワークの更改時に大企業などが移行した無線IPネットワークの「Wi-Fi網」も、オンライン会議などの急増によって帯域不足(速度低下)が課題となっていると聞く。この課題をどう解決していくのがよいだろうか。

超高速な自営網へのアップグレード

 次回は城の現代版ともいえる自営網の、固定電話→PHS→Wi-Fi→ローカル5Gへのグレードアップについて考察する。(つづく

〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問・国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉