2021.03.12 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<33>企業ネットワークをローカル5Gに移行する ②

 通信ネットワークは、公衆網(パブリックネットワーク)と私設網(プライベートネットワーク)に大別される。最近では、後者を自営網と呼ぶことが多い。

 公衆網はNTTやKDDIといった通信キャリアによって構築され、全国津々浦々全ての人に提供されるライフライン的な通信サービスが基本となる。それに対して、自営網は特定の閉じた限定ユーザーに向けて、公衆網とは違った個別の通信サービスを自前で構築するものになる。

 例えば、オフィスや工場、病院、ホテルなどが、それぞれのニーズに合わせて設計した独自の仕様に従って自前のネットワークを構築し、自ら運営することが基本となる。そのため自営網のネットワーク構成は、規模や形態、収容する端末の種類や数、配線方法や制御機器の方式、サービス種別などの違いによって様々だ。

 作業環境やアプリケーション、使い勝手(UX)なども現場の利用環境で異なり、通信環境や通信速度、許容遅延、信頼度、同時接続数など、キメ細かい通信サービスの品質が求められるのも自営網の大きな特徴になる。

自営網と公衆網

 さて、ここでは自営網について歴史からひも解いてみたい。

 自営網のルーツは100年以上さかのぼる。明治19年(1886年)、足尾銅山と宇都宮・日光・東京を結ぶ日本初の私設電話が引かれた。渋沢栄一が実業家として活躍していた時代だ。その4年後、明治23年に東京と横浜間に日本初の公衆網の電話サービスが始まった。以降、新たな通信技術が登場するたびに、自営網と公衆網は互いに競い合うように進化している。

 歴史からみても「ローカル5G」は最も進化した自営網と言えるだろう。その進化の過程をたどれば、ローカル5Gへ移行する流れが見えてくるに違いない。1980年代に普及したデジタルPBX(構内交換機)と呼ばれる「固定電話」の自営網から見てみよう。

 固定電話は、個人ではなく小さな組織単位に割り当てられた内線番号を持つビジネスホンと、内線接続や公衆網との外線接続を行うPBX、両者をつなぐ電話線(モジュラケーブル)から構成される。

 課題としては、在席していないと電話できない不便さがある(ビジネスホンの転送機能などはこれを補うもの)。加えて、組織やフロアレイアウトの変更のたびに、電話線の多大な配線コストがかかることだ。

通信安定のPHS

PHSによる自営網 モバイル化による課題解決

 そこで自営網の「モバイル化」の検討が始まり、どこにいても、歩いていてもワイヤレス通信できるニーズに初めて応えたのが「PHS」になる。

 免許不要な1.9ギガヘルツ帯の周波数を利用した構内PHSは、構内であればアンテナを自由に設置できるため電話線が不要となり、配線コストを大きく削減できる。加えて、電波干渉が少なく通信が安定しているため、1990年代にはオフィスや病院、工場、大型店舗などに普及した。

 ところが、2000年代に入り、PHSの需要は低落した。それはなぜだろうか?(つづく)

〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問・国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉