2021.04.15 【自動車用部品/コネクテッドカー関連技術特集】車載5G/C-V2X関連モジュール技術アルプスアルパイン

車載用5G NRモジュール「UMNZ1シリーズ」

アルプスアルパインいわき事業所のテストコースアルプスアルパインいわき事業所のテストコース

 アルプスアルパインは、車載5GやV2Xに対応した技術開発を加速させている。同社は、完全自動運転実現に必須のC(セルラー)-V2X機能を搭載した「車載用5G NR※1モジュール」(製品名=UMNZ1シリーズ)をいち早く開発、今年3月からサンプル出荷を開始した。

 超高速・超低遅延・多数同時接続を特徴とする第5世代移動通信システム(5G)は、今後の通信社会を支える重要な技術。CASE(コネクテッド、オートノマス、シェアード&サービス、エレクトリック)の大変革期になる自動車業界でも、その恩恵は大きく、自動車が各種交通インフラや他車、歩行者などと通信して相互連携するV2Xシステムと5Gを組み合わせることで、交通状況をナビゲーションへリアルタイムに反映したり、高解像度動画を即時ダウンロードして車室内ディスプレーで楽しむといったIVI(イン・ビークル・インフォテインメント)の高度化や、各種センサーの情報から自動車の状態を把握し保守点検の高率化する自動車のIoT化に寄与するといわれている。中でも期待されているのが、従来のV2Xでは補完しきれなかった、信号や他車の状況に合わせた速度調整などの完全自動運転に必須な機能の実現がある。

 このため、V2Xシステムと5Gを応用した新たな車載通信システムの早期確立が求められているが、一方で、これを実現するには従来の4G LTEに対する通信機能の高度化とV2X対応による多機能化で複雑な処理が必要となるため、自己発熱でモジュールが高温化してしまい、本来の製品のパフォーマンスが発揮できなくなる課題がある。さらに、多機能化に伴うモジュールの大型化に対して、顧客基板への実装を考慮したモジュール設計の最適化も求められている。その開発難易度の高さや必要な開発リソースの大きさから、製品化には高いハードルがあった。

 そうした中で、同社は日本企業として初めて、C-V2X機能搭載の車載用5G NRモジュール「UMNZ1シリーズ」を開発した。同シリーズは、3GPP※2 Rel15規格に準拠した製品。自己発熱を抑えるとともに実装後のセット内部での放熱性も考慮した独自構造を採用することで、常に最大限の製品パフォーマンスを発揮できる。独自設計によりモジュールの平坦度を制御することで、車載品質に適合した製品設計を実現し、顧客側での安定した実装が可能になる。

 グローバル各地域ごとで規格の異なる周波数帯に対応したコンパチタイプのため、顧客の開発工数削減に貢献する。

 同社は今年3月から、UMNZ1シリーズのサンプル出荷を開始済みで、V2Xシステムと5Gによる次世代通信ソリューションの社会実装を推進する。

 主な用途は、テレマティクス制御ユニット(TCU)、V2Xオンボードユニット(OBU)、V2Xロードサイドユニット(RSU)。

 主な仕様は、外形サイズは、60.0×60.0×高さ4.5ミリメートル。対応モデムは、2G GSM、3G WCDMA、4G LTE、5G NR。使用温度範囲マイナス40度-プラス85度。電源電圧プラス5.0/プラス3.7V。対応機能は、セルラー、C-V2X、DSDA、GNSSなど。

 同社は、ブルートゥースやWi-Fi技術を応用した車載向け製品で高い実績を持つ。C-V2Xについても、中国のC-V2Xチップサプライヤーとの生産・開発に関する相互補完パートナーシップ締結によるV2Xプロトコルを内蔵したオールインワンモジュール開発や、中国での相互接続性テストへの参加、無錫市C-V2X特区での継続した実証実験の実施など、C-V2Xの導入で先行する中国地域での取り組みを中心に、業界に先駆けた取り組みを進めてきたが、UMNZ1シリーズは中国以外のグローバル用途を目的としており、各国の周波数バラエティー対応、DSDA※3対応をオプションとして幅広い用途に対応できる設計としている。

 中国市場向けでは、インテリジェント交通システム・スマートシティーおよび自動運転領域向けのC-V2Xオールインワンモジュール「UMCC1シリーズ」を開発し、20年7月からいち早く量産開始している。

 同モジュールは、「3GPP Rel.14」規格に準拠するとともに、アプリケーションプロセッサーおよびV2Xプロトコルスタックを標準搭載したオールインワンタイプとなっているため、車載ユニット側のHOST CPU負荷を低減。また、モジュール用電源回路(PMIC)を内蔵しているため、車載ユニットの単機能-高機能までのシステム拡張を一つのプラットフォームで容易に行える。加えて、セットメーカーにおける製品評価が可能な「Evaluation Kit(セルラー-V2Xモジュール評価キット)」を準備しているため、ユニット設計の開発・評価工数の軽減にも貢献する。

 同モジュールは、18年11月に戦略的パートナーシップ契約を締結した中国の大唐電信(北京市)のグループ会社、大唐高鴻と共同開発した製品。中国市場でのメードインマーケットに対応する。IMT-2020実証実験にも参画しており、高い相互接続性と信頼性を実現する製品となっている。

 また、同社は今年2月1日に、国内で初めて、総務省から5.9GHz帯における「C-V2X実験試験極免許」を取得した。

 同免許取得により、同社いわき事業所(福島県いわき市)で、米クアルコムと共同で開発を進める「ViewPose」の高精度位置情報を用いた「C-V2Xシステム」の実証実験を開始し、安心、安全で高度な道路交通情報システム実現への貢献を目指す。

 V2Xの通信方式は、従来はDSRCが先行していたが、昨今は携帯電話などで利用されている既存の通信インフラを活用できる点や通信範囲の広さから、C-V2Xが主流となってきている。

 C-V2Xは、米中を中心に5.9GHz帯の利用が定められ、日本でも20年5月改訂の総務省の「周波数再編アクションプラン」で、5.9GHz帯をC-V2X用の周波数帯として割り当てた際の既存無線通信システムとの共用などに関わる技術的条件について、21年度末までに検討を行うことが公表されている。

 同社はいわき事業所に、車載製品に関する多数の評価設備を有しており、中でも周回1キロメートルのテストコースは、広域通信が特徴のC-V2Xの評価に適した環境となっている。同社では、免許取得を機に、このテストコースを用いて、ViewPoseの高精度位置測位情報を活用した同社開発中のC-V2Xシステムの実証実験を開始。社会実装評価を推進するとともに、会得した知見をC-V2Xアプリケーションに応用して欧米中他グローバル展開を進める。

 ※1 5G NR(5G New Radio) 5G用に仕様策定された電波による無線アクセス技術。

 ※2 3GPP サード・ジェネレーション・パートナーシップ・プロジェクト。次世代移動通信システムの仕様の検討・作成を行う標準化プロジェクト。

 ※3 DSDA デュアルSIMデュアルアクティブ。1台の製品で2つのセルラーネットワークを同時に利用できる技術。