2021.07.21 Let’s スタートアップ! CRETARIA歩くおしゃべりロボットで学ぶ母親目線で開発したプログラミング教材

 成長が著しいスタートアップ企業を取材し、新しいビジネスの息吹や事業のヒントを探る「Let’s スタートアップ!」。

 今回は、人型二足歩行プログラミングロボット「Qumcum(以下、クムクム)」を利用したプログラミング学習教材を開発・提供している株式会社CRETARIA(以下、クレタリア)。

 2016年に創業した同社は、2018年に「クムクム」を一般販売。2019年5月から、全国の学習塾や教育機関に向けた「クムクム学習システム【E-クムクム】」の提供を開始している。

 同社のプログラミング学習教材の特徴は、元保育士で3人の子の母親でもある代表取締役/CEOの小野瑞穂さんが、母親目線で開発した、子どもの成長に必要なエッセンスを盛り込んだ教材になっていることだ。小野さんに会社設立の経緯や思いを聞いた。

プロフィール 小野瑞穂(おの・みずほ) 株式会社CRETARIA 代表取締役/CEO
3人の子を持つ母親であり、前職は保育士。京都のIT系開発会社キヤミー、台湾・中国企業とのものづくり合弁会社サイコス・ジャパンの財務を担当後、2016年にクレタリアを立ち上げる。

人型ロボット「クムクム」を使ったプログラミング教材

 2020年からプログラミングが小学校で必修化したことを受け、多くの教材が作られ、教育機関や学習塾で導入され始めている。しかし、プログラミング教育の必要性は理解しているものの、子どもたちにどのような学習を提供すればいいのか、戸惑う教育関係者や保護者は多い。

 そうした中で、3人の子の母親、かつ元保育士という代表小野さんの経歴を生かした、独自のプログラミング学習教材を開発・提供しているのがクレタリアだ。

 クレタリアの教材の特徴は、人型二足歩行プログラミングロボット「クムクム」を使うことにある。

 クムクムには、前方の物体を検知する「距離センサー」「音検知マイク」「日本語の発話」「効果音自由演奏」「7色に光るLED」「二足歩行」「腕の上下回転」「頭の回転」という八つの機能が搭載されている。またクムクムは、ドライバー1本でばらしたり、組み立てたりできるので、子どもたちは工作を楽しみながら、電子部品やメカニカルな構造への理解を深めることができる。

 さらに、自ら作ったプログラムでクムクムを動作させることも可能だ。その動作プログラムも、マサチューセッツ工科大学(MIT)が開発した初心者(子ども)向けビジュアルプログラミングツールであるスクラッチ(Scratch)から、中級者向けのパイソン(Python)、そしてC言語による本格的なプログラミングまで、使う人のレベルや学習意欲に合わせて自由に選べるようになっている。

 子どもたちは、クムクムをしゃべらせたり、歩かせたりして遊びながら、プログラミングに興味を持つきっかけを得られるというわけだ。

 クレタリアでは、このクムクムに元保育士で母親でもある代表・小野さんの知見を取り入れたテキスト・カリキュラムを合わせ、プログラミング学習教材として、学習塾や教育機関に提供している。

 現在同社の教材は、多くの大学や学習塾、イベントで利用されているほか、小中学校でモニター授業が開催されるなど、活用の場が広がっている。

クムクムは、京都のIT系開発会社キヤミーが技術者を育成するため開発したシステムをベースに、京都大学との共同研究や小中学生への講座で得たノウハウを基に開発された
より本格的な機能が使えるIoT &AI研究開発モデル「クムクムプロ」も開発中(2021年6月中旬撮影)

プログラミング教材に抱いた「違和感」

 クレタリアはどういった経緯で設立されることになったのか。代表取締役/CEOの小野さんは、自身が従来のプログラミング教育に対して「違和感」を抱いたことが、設立のきっかけになったと話す。

 私はもともと保育士をしていたのですが、あるとき体を壊して、続けるのが難しくなりました。

 ちょうどそのころ、京都のソフトウエア会社キヤミーの代表・吉川直人(現在、クレタリアの研究開発部門も兼務)と知り合い、財務の仕事をしないかと誘われました。今から20年近く前のことです。

 そこから、プログラマーの人たちと仕事をする日々を送るようになったのですが、プログラマーのように論理的思考で考える人たちとうまくやり合っていくには、こちらもある程度、論理的に物事を考えて発言する必要があります。

 そのうちに私自身も人に何かを伝えたり、人前で話すことがうまくなったりと、「論理的思考を身に付ける大切さ」を実感することがありました。

 同じころ、吉川が京都の教育委員会から依頼され、子どもたちへのプログラミング講座を始めることになりました。合わせて、プログラミングが学校の新たな教科になることも聞きました。

 ただそのとき私は、ある「違和感」を覚えました。そのころ使われていたプログラミング教材がどうもしっくりこなかったのです。

 子どもたちの将来を考えると、コンピューターの知識はこれから必要不可欠なものでしょう。でも子どもたちには、やはりなくしてほしくない人間的な感覚もあると感じていたのですね。

 そういった思いから、アナログ的なことと、デジタル的なことを融合させたようなプログラミング教育をやってみたいと考えるようになりました。

 そこから吉川と子ども向けのプログラミング教材を考え始め、私は、人と人とのコミュニケーションを大切にしながらプログラミングを学ぶことに重点を置いた、人型ロボットの利用を発案しました。それがクレタリア設立のきっかけです。

クレタリア設立のきっかけは、当時のプログラミング教材に対して抱いた違和感だと話す小野さん

今あるものにプラスしていける教育

 人型プログラミングロボット・クムクムの開発は吉川氏が代表を務めるキヤミーで行い、小野さんはクレタリアの代表としてプログラミング教材の軸となるテキスト作りを担当した。具体的にどういったコンセプトの教材を提供しようと考えたのだろう。

 「論理的思考を育むことの何が良いのか」と問われたときに、私自身は、論理的思考そのものが良いのではなく、子どもたちが今学校で学んでいる教育に、新たな要素を加えられることが良いのだと考えています。

 例えば、今まで算数が苦手だった子が(論理的思考を身に付けることで)ちょっと計算が得意になるとか、国語が苦手だった子が、ゆっくり文章を理解しようと考えることで、文章の読解力が付くとか。

 プログラミング学習というのは、そういった“今あるものにプラスする教育”だと私は考えています。そのため、私たちが提供する教材は、子どもたちが、算数や理科、国語など、今ある教科に生かせる内容であってほしいと考えたのです。

 ですから、私たちが提供しているプログラミング教材のテキストは、専門的な内容だけでなく、もっと手前の内容から始まっています。

 例えば、テキストでは「光が何か」といったことから話を始めているのですが、まずは光が三原色からできていると学び、信号機を見てみると、「なるほど、あれはこういった色でできているんだ」と分かる。

 こんなふうに、子どもたちが身近なことに興味を持ち、気づきを得て、今学んでいるものにプラスしていける。そのようなテキスト作りを心掛けています。

「プログラミング教育は、今あるものにプラスするためのもの」だと小野さん

会社設立から3年続いた下積み

 現在クレタリアでは、塾、教育機関、個人の3者に向けプログラミング教材を提供。最近では、京都市内の小中学校でもモニター授業が開催されるなど、順調に成長を続けている。しかし、今の状態に至るまでの道のりは決して楽ではなかったと、小野さんは苦労を振り返る。

 2016年に会社を立ち上げたのですが、そこから3年ぐらいは下積みのような状況が続きました。

 私たちは京都を中心に活動しているのですが、京都は教育に関しては保守的で、プログラミング教育といった新しいものへの対応は遅いのです。

 そうした中で、運よく吉川が教育委員会からプログラミング講座の依頼を受けていたことから、私たちは他の事業者と比べると、教育の現場に触れるチャンスが多くありました。

 とは言うものの、教育は自分たちが提供したものがどんな結果につながるのかを明確に説明するのが難しい活動ですので、教育スタイルに自信を持てるようになるまで時間がかかります。

 私たちも最近になって、ようやく「私たちの教育はこういうもので、こういう成果が得られます」と自信を持って言えるようになってきたところです。

 何とかここまで来られたのは、吉川をはじめ、周りのメンバーに恵まれたことが大きいですね。私一人では到底できない事業で、経験豊かなメンバーにいつも助けてもらっています。

クレタリアのメンバー。小野さんの右隣でクムクムを持っているのが、クレタリア研究開発担当(兼キヤミー代表)吉川直人氏

発達障害のある子にもプログラミング教育を

 今後どういった展望を抱いているのか。小野さんが考えるクレタリアの未来予想図を聞いた。

最終的に目指しているのは、発達障害のある子たちにも、私たちのプログラミング教材を提供できるようにすることです。

 私が保育士をしている頃から、そういった発達障害のある子たちがどんどん目立つようになってきました。もちろん今までもそういった子はいたのですが、最近は明確に定義付けされるようになったので、より知られるようになってきましたね。

 実はそういった発達障害のある子たちに、プログラミング教育がすごく良い影響を与えるという声も増えているのです。であれば、ぜひ私たちの教材も提供していければと考えているのです。

 まずは、「少しずつその業界の先生と話をしていき、そこで得た知見も踏まえながら、発達障害のある子たちの役に立つプログラミング教材を作り提供していく」ことを目標に、今は基本スタイルを確立していくということに注力しているところです。

 最後に、小野さんが伝えたいメッセージを聞いた。

 私たちが伝えたいのは、「クムクムで未来教育を作りませんか」というメッセージです。

 繰り返しになりますが、やはり私たちの事業の根底にあるのは、今あるもの(教科)をもっと生かす教育を作りたいという思いです。

 そんな思いが一人でも多くの人に伝わればうれしいですね。

(取材・写真:庄司健一)
社名
株式会社CRETARIA(クレタリア)
URL
https://cretaria.jp
代表者
代表取締役/CEO 小野瑞穂
本社所在地
京都市下京区妙伝寺町720光悦ビル5F
設立
2016年8月27日
資本金
7,400万円
従業員数
4人(2021年6月時点)
事業内容
教育資材の企画・開発・販売