2021.08.02 【インダクター・コイル特集】電子部品需要の回復で順調に拡大
インダクター市場は、世界的な電子部品需要の回復を追い風に、順調な拡大が続いている。特に、自動運転化やEV化が進む自動車、5G(第5世代移動通信規格)化が進展するスマートフォン、産業機器などの分野が需要をけん引している。インダクター各社は、旺盛な需要に対応するための設備能力増強を推し進めるとともに、次世代ニーズに対応した新製品開発を強化することで、差別化を推進する。
車載用 高機能化で搭載点数増える
電子情報技術産業協会(JEITA)の電子部品グローバル出荷統計によると、インダクターは世界的な景気拡大の波に乗り、2017年度に大きく増加。18年度も前半は堅調に推移したが、後半には米中貿易摩擦の激化に伴う中国経済減速や設備投資需要低迷などが響き、主要電子機器、産業機器向けの需要が低調に推移した。19年度も、米中貿易摩擦長期化などの影響から、マイナス成長を余儀なくされた。
20年度のインダクター市場は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴う経済活動や企業活動停滞により、当初は厳しい状況が予想された。しかしながら、5月ごろからいち早く中国自動車市場が立ち上がると、7月ごろから米国自動車市場が回復。さらに、リモート需要や巣ごもり需要によるデジタル製品の需要増もインダクターの需要を拡大させた。年度後半にはあらゆる産業分野でコロナからの回復が顕著となり、結果的に20年度のインダクターグローバル出荷金額は、前年度比3.3%増の2659億円と成長を確保した。
インダクター市場は、21年の年明け後も、自動車やモバイル端末、産業機器などをけん引役に堅調な推移が継続しており、21年度も成長の持続が見込まれている。
世界のインダクター市場は、今後も機器の高性能化や数量増を背景に、堅調な伸びが期待されている。分野別では、車載用インダクターは、電装化率の高まりから搭載点数が増加。電源系のパワーインダクターをはじめ、無線通信系の高周波インダクターやカーナビなどに使われる信号系インダクターなどを含め、ECUの搭載点数増や高付加価値化により、さらに需要規模が拡大すると期待されている。
車載用インダクターが使用されるECUは、セーフティー系からパワートレイン系まで高機能化の進展に伴い、搭載点数が増える。従来は車室内での設置が多かったが、エンジンルームに設置される機電一体化などで、耐環境を重視した高信頼性のECU用製品も求められるようになってきている。
車載用インダクターの新製品開発では、自動車の信頼性試験であるAEC-Q200を満足した製品の開発が進展している。信頼性が強く求められることから、ECU用インダクターは、125度対応から150度対応へと高温度保証が要求されるようになってきた。180度対応の製品も開発されている。自動車特有の耐振動・衝撃に対する信頼性確保も合わせて追求されている。
最近では自動運転技術の高度化を踏まえ、ADASなどの安全系の開発、採用が活発化している。ミリ波レーダーや車載カメラなどによる画像などのデータ伝送の高速化、高精度化を推進するために、3225サイズのイーサネット用コモンモードフィルターが開発され、さらに広帯域での高いインピーダンスを実現した車載カメラ向けインターフェース用の信号伝送と電源供給を1本の同軸ケーブルで実現する車載PoCインダクターも商品化されている。
定格電圧40Vを実現し、車載12Vバッテリーから直接入力接続される電源回路での使用が可能とされるメタル系パワーインダクターも開発された。
スマホ 超小型への技術要求強まる
スマホでは、マルチバンド化、高機能化とバッテリー容量の拡大に伴い、スマホ内蔵バッテリーの占める面積が増えていることから、限られたスペースの中で各機能の回路を形成する必要が出てきている。IoT端末や機能モジュールでは、さらに高密度化が進展し、超小型インダクターへの技術要求が強まっている。
各社は、高周波用、電源用、フィルター用などの各用途に最適な小型・薄型の新製品を相次いで市場投入している。
高周波用インダクターは、RF回路における高性能化のための高Q化、高精度化と高密度実装化へ小型、薄型化を両立させることが要求されている。現在では、0402サイズにおける高Q化が進展している。
フィルター用インダクターは、信号回路において一般的にコンデンサーと組み合わせてLCフィルターとして使用される。特定の周波数の信号だけを通し、不要な周波数の信号をカットする目的で使用される。LCノイズフィルターとして、ノイズ対策用途が広がっている。
スマホでのノイズ対策は、高密度実装化の進展に伴い、隣接する部品間が狭隘(きょうあい)化することで複雑化している。そうした中で、0402サイズのフェライトビーズの採用が進む。
また、信号伝達の高周波化、高速化により、高速差動ノイズ対策の必要性が高まっている。その対策として、LCノイズフィルターを用いるようになった。積層LCタイプに加え、薄膜LCタイプも開発されている。
電源用インダクターは、小型、薄型、大電流対応の技術が進展している。スマホでは、さまざまな半導体デバイスを駆動するための超小型・低背のDC-DCコンバーターが数多く搭載される。機能強化によりコンバーターの搭載点数が増えることが、パワーインダクターの需要を押し上げている。
パワーインダクターは、フェライト巻線型、フェライト積層型のほか、ここ数年、メタル系パワーインダクターでの巻線、積層、さらには薄膜の3層があり、サイズは1608サイズまで小型化した。なおかつ、厚みは1ミリメートル以下に抑えられ、電源回路の薄型設計を可能にしている。
メタル積層チップパワーインダクターは、1608サイズ品に対し、さらに小型化を追求した1005サイズの製品も開発されている。