2021.08.23 空飛ぶクルマ実現へ空力特性の研究加速 スカイドライブ、JAXAと機体など試験

試験のデータ確認の様子(提供=スカイドライブ)

7月に東京都内で披露された機体7月に東京都内で披露された機体

風洞試験の模様(提供=スカイドライブ)風洞試験の模様(提供=スカイドライブ)

 「空飛ぶクルマ」=キーワード=の開発を進めているベンチャー企業、SkyDrive(スカイドライブ、東京都新宿区)が、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の協力を得て、空力特性の研究を加速させている。従来は独自に研究を積み重ねてきたが、JAXA施設でプロペラ(ローター)の風洞試験=キーワード=を実施したのを皮切りに、今後、協力の幅を広げたい考えだ。

 空飛ぶクルマの分野を巡っては、日本では2018年に「空の移動革命に向けた官民協議会」が設立され、都市部でのタクシーサービスや離島・山間部の新たな移動手段、災害時の救急搬送などにつながるものとして期待がかかる。23年ごろの事業開始および、30年の本格普及に向け、ロードマップ(経済産業省・国土交通省)が打ち出されている。

「離陸」へ一歩

 同社が今回協力を得たのは、JAXAが持つ日本最大の航空機用風洞試験設備。プロペラの空力特性=キーワード=を調べる試験を実施した。時期など詳細は公表していないが、関係者によると6月ごろに1週間前後、試験をしたもようだ。

 飛行機やヘリコプターなども含め、これまで日本で開発された航空機のほぼ全てが同施設で風洞試験を実施。そのデータを基に空力に関する研究が行われ、特性把握や性能向上が図られてきた経緯がある。空飛ぶクルマや類似のプロジェクトが、同設備での風洞試験を行ったのは日本で初めてといい、同社の活動の進展がうかがわれる。

 空飛ぶクルマのプロペラは、飛行機やヘリコプターと違う使われ方をしており、空力特性には分かっていない領域もある。空気がプロペラにどのように影響するかについて把握することは、機体開発の上で最も重要な要素の一つ。安全性にも大きく影響するため、実機を用いた試験データが必要となる。

 空力特性の研究を踏まえてプロペラの形状や回転数を最適化することが、電力の高効率活用や飛行の安定化、静音化などにつながる。

さらなる研究も

 同社は今回の試験をさらに発展させ、プロペラだけではなく、周辺のユニットや機体そのものの風洞試験、さらには計算流体力学=キーワード=による解析なども進めたい考え。飛行データの解析を合わせ、JAXA側と研究開発を実施していく構えだ。

 最高技術責任者の岸信夫氏は「JAXAの風洞試験施設は、航空機の開発になくてはならないもの。当社がこの設備で試験をしたことにより、空飛ぶクルマが安全安心な、信頼できる航空機へ一歩近づいたと感じている。協力を得て取得したデータは、社会に求められる機体仕様の実現に向けて、ローターの設計開発に役立てていく。今回はローター単体の試験だったが、今後は機体全体の空力設計や解析など、協力の幅が広がることを期待する」と話している。

 同社は先に、空飛ぶクルマの試作機での有人飛行試験を公開。併せて日本政策投資銀行やNECなど10社から、機体開発費として計39億円を調達した。開発を加速し、23年度の実用化を目指す。

【キーワード】

 ◇空飛ぶクルマ 正式名称は「電動垂直離着陸型無操縦者航空機(eVTOL=electric vertical takeoff and landing)」。電動化、完全自律の自動操縦、垂直離着陸が大きな特徴。モビリティー分野の新たな動きとして、世界各国で開発が進んでいる。

 ◇風洞試験 任意の速度(風速)で空気の流れを発生させることのできる風洞設備を使い、大気中を移動している状態を模擬し、対象物体に働く力やその周りの流れを計測する試験。

 ◇空力特性 空気中を移動する物体が受ける力学的な性質。プロペラの場合、プロペラが発生させる推力やプロペラに作用する抗力など。

 ◇計算流体力学(Computational Fluid Dynamics=CFD) コンピューターを使い、対象物体とその周りの流れを数値的に模擬することで空力特性などを解析する手法。航空機やプロペラなどの性能を予測する際に用いる。