2021.08.27 防災などでニーズ増蓄電池の先駆け「エリーパワー」 吉田博一会長兼CEOに聞く

吉田 会長兼CEO

安全性や機能を強化

 定置型の大型蓄電池開発を業界に先駆けて手掛けるエリーパワー(東京都品川区)。相次ぐ災害などへの備えのほか、新型コロナワクチン保管のバックアップ、企業の事業継続などで蓄電池が注目されている。大手銀行副頭取などを経て起業した吉田博一会長兼最高経営責任者(CEO)に聞いた。

 ―バンカー出身ですね。

 吉田会長 住銀リースの社長だったとき、さまざまなリサイクル関連の法制度もできるなか、リース物件も耐用年数を過ぎると、廃棄物として処理しなくてはならないという問題に直面した。しかし、産業廃棄物を捨てる場所の確保にも苦労するという状況。それが契機になり、リタイアをしたら、環境問題、温暖化対策などに取り組みたいと考えるようになった。さまざまな経過を経て、2006年に、3人の仲間とともに創業した。

 大きかったのは、2001年に慶応大学の電気自動車に出会ったこと。試乗させてもらい、たいへんな加速とスピードを体感した。それで、これをぜひ実用化させようと、最初は住銀リース社長として学外から支援。住銀リースを退いた後、03年に慶応大学大学院教授に転身。資金集めなどプロジェクトにもかかわった。それが、電池の重要性を認識する契機になった。

 プロジェクトは、電気自動車の可能性を示すことや、大型リチウムイオン電池の開発機運を高めることなどには成功した。だが、電池の値段だけで何千万円もするのでは普及は厳しい。絶対安全で十分な性能を持つ電池開発を、メーカーと組んで進めることも目指した。とはいえ、当時は燃料電池の華やかな折で、世の中も消極的。大型のリチウムイオン電池の開発生産をするメーカーが見つからず、自分で起業することにした。

 ―ベンチャーとしてですね。

 吉田会長 安全で低コストの大型リチウムイオン電池を定置型として開発し、世界で初めての全自動工場を建設し量産すればニーズがあると考えた。

 資金提供をお願いして回るとき、自分が銀行時代に担当した企業や経営者は、意識して避けた。情実や付き合いではなく、組織として客観的、合理的に判断してもらいたいと考えたから。相手の判断は、事業への試験にもなり、自分の方向性をチェックすることにもなる。

 装置産業をベンチャーが手掛けるのは、無謀ともいわれた。だが、多くの企業の協力を取り付け、また技術者も確保して生産を始めた。

 ―強みをどう磨きましたか。

 吉田会長 何よりも絶対に安全な電池を目指そうと考えた。市場で主流なのは三元系(ニッケル、マンガン、コバルトを使うもの)の正極材だったが、日本では全く使われていなかったリン酸鉄リチウム(LFP)を選んだ。安定を最優先に考えたためだ。エネルギー密度が低いなど、使えない正極材といわれたが、技術陣が克服してくれた。最近テスラなどがLFPへのシフトを進めているというのも、先行した我々の方向性の正しさを示しているのではないか。

 ドイツに本拠を置き国際的に定評のある第三者認証機関「テュフ ラインランド」の最も厳しい認証を取得している。蓄電池メーカーでは世界で唯一だ。

 リチウムイオン電池の事故は報じられるが、当社の電池は釘を刺しても燃えない。何より、これまでも電池に起因した事故を一度も起こしたことがない。

 ―蓄電池を取り巻く状況をどうみますか。

 吉田会長 2011年の東日本大震災で、非常用電源が注目され、当社もいち早く現地で役立ててもらうなど貢献できた。その後、毎年のように災害が起き、大規模停電などもあって、蓄電池への認識はますます高まっている。企業が事業継続のため備える動きも広がっている。

 最近は医療機器の周辺機器バックアップ電源としてのニーズも広がっている。広い意味の「安全・安心」のマーケットに貢献できる。

 車載も大型のマーケットに育つ可能性がある。新製品も展開している。燃えない電解液を用い、消防法の規制対象外になる不燃性の電池の開発にも成功しており、今は価格への挑戦をしている。

 ―IoTにも取り組んでいますね。

 吉田会長 蓄電システムと通信が融合できればと創業時から考え、システムを開発してきた。今はNTTドコモと協業し、蓄電池をプラットフォームにしたスマートホームに取り組んでいる。

 また、太陽光発電など再生エネルギー、分散型電源も後押しになっている。余剰電力を自宅で蓄電するニーズが増えるなか、電力会社とも組み、蓄電池とIoT、人工知能(AI)を活用し、電力会社の需給調整、仮想発電所を進めていきたい。

 今後も生産体制を強化する。蓄電池は電化社会の中で不可欠。安全性や機能、特性などをさらに磨く。

 ―日本経済、起業などの状況をどうみますか。

 吉田会長 日本全体がやや自信喪失気味ではないか。ネット社会の中で、良い情報よりも、ネガティブな情報が広まりやすく、それに影響されている部分があるだろう。

 また、さまざまな分野を広く手掛ける総合メーカーが増え、経営の厳しさの一因にもなっている。ニッチでも何かに特化して専門化し、また社会の先を見ることが必要だろう。