2021.08.31 【ソリューションプロバイダー特集】市場動向 クラウド/クラウド型データセンター

キヤノンMJの西東京データセンター2号棟キヤノンMJの西東京データセンター2号棟

マルチクラウドなどが主流に

■クラウドサービス市場

 企業のデジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)が加速している。また、コロナ禍が働き方を変えた。

 ポストコロナも、オフィスとテレワークが半々のニューノーマル(新しい日常)が定着。こうした環境を支えるのがクラウドサービスであり、実現するインフラ環境がクラウド型データセンター(DC)である。クラウドサービスおよびデータセンター市場は、高い成長が見込まれている。

 クラウドサービス市場が大きく伸びている。ICT基盤は従来のオンプレミス環境から、急速にクラウドサービスへとシフト。コロナ禍のため、どこででも働ける環境が求められ、クラウドサービス化が一気に進んだ。

 クラウドサービスにはプライベートクラウドとパブリッククラウドがあるが、両クラウドサービスを同時に活用するハイブリッドクラウド、複数のクラウドサービスを組み合わせたマルチクラウドが主流になりつつある。

 パブリッククラウドは、クラウド事業者が提供するクラウドサービスを企業や個人が「共有」して利用するサービス。AWS(アマゾン ウェブ サービス)、Azure(アジュール)、グーグル クラウド プラットフォームなどが代表的だ。ユーザーは、ハードや通信インフラを持たずに、クラウド事業者が提供するクラウド環境を利用する。

 プライベートクラウドは、クラウド上に自社専用のクラウド環境を構築し、主に自社内で利用する。

 近年は、複数のクラウドを利用するマルチクラウドや、パブリッククラウドとプライベートクラウドを連携させたハイブリッドクラウドへの流れが加速している。

 また、クラウドサービスは利用形態から、ソフトウエアを利用するSaaS(ソフトウエア アズ ア サービス)、サーバーレスでアプリケーション開発などが可能なFaaS(ファンクション アズ ア サービス)、サーバーなどプラットフォーム環境を利用するPaaS(プラットフォーム アズ ア サービス)、インフラ環境を利用するIaaS(インフラストラクチャー アズ ア サービス)に分けられる。

 IDC Japanは、国内のパブリッククラウドサービス市場について予測。これによると、2020年の国内の市場規模は、前期比19.5%増の1兆654億円となっている。さらに、20~25年の平均成長率は19.4%で推移し、25年に20年比2.4倍となる2兆5866億円に成長すると予測する。

 また、MM総研は、パブリッククラウドとプライベートクラウドの合計で、20年度の市場規模を2兆8649億円と予想。24年度には5兆3970億円を見込んでいる。

 クラウドサービス市場急拡大の背景には、コロナ禍に対応した企業の経営戦略、IT投資に対する意識の変化がある。IDC Japanは「企業のIT戦略において、クラウドを優先的に利用するクラウドファースト戦略が増えている」と指摘する。

■データセンター市場

 近年、企業のクラウドサービスの活用が進んだほか、新型コロナウイルスの感染拡大もあって、クラウド型データセンターの利用が増加。企業のDXが本格化し、クラウドサービスを活用しようとする動きが広がり、データセンター需要を押し上げている。

 IDC Japanがまとめた国内データセンターサービス市場の予測では、今後、2桁近い成長が見込まれ、24年の市場規模は2兆1828億円に上る見通しだ。

 また、同社は先ごろ、国内データセンター事業者の新設および増設の投資予測を発表した。20年が前期比64.1%増の伸びとなった反動から、21年は鈍化するものの、22年以降も増加傾向は続き、25年の投資規模は3000億円に近づくと予測。「クラウドサービス向けハイパースケールのデータセンターが相次ぎ建設される」(同社)と分析する。

 こうした中、デジタル化の進展に伴って増大するデータセンターのエネルギー消費量の抑制などが大きな課題となってきた。

 館林データセンターをはじめ、国内で最大規模のデータセンター事業を展開する富士通は、人工知能(AI)空調制御による冷却エネルギーの効率化などで成果を上げている。また、データセンターの再生可能エネルギーへの転換を積極的に進めていく方針だ。

 セキュリティー面ではNECがいち早く、NEC名古屋データセンターで、顔認証によるセルフチェックインを採用。主要なゲートにはICカードと顔認証を用いた多要素認証を採用しセキュリティーを強化した。キヤノンマーケティングジャパン(MJ)が新たに竣工した西東京データセンター2号棟でも、世界基準の運営品質、顔認識技術を使用した入退室認証システムなどを取り入れて運用面、セキュリティー面の強化を図っている。

 「日本国内でデータを保管・管理するニーズの高まり」に応え、外資系IT各社によるデータセンターの新規開設の動きも本格化。日本オラクルは昨年、東京と大阪にデータセンターを開設し、顧客のDX対応などを強化した。ワールドワイドに事業展開するインドのZoho(ゾーホー)は、日本国内の厳格なセキュリティーニーズに対応するため、東京と大阪に2カ所のデータセンターを開設することを発表。

 シンガポールのプリンストンも、超大型のデータセンターを埼玉県に設置するため、約1000億円の投資を行い、今年下半期に着工する計画を明らかにしている。

 国は、デジタル産業基盤を「国民生活に不可欠な基盤」と位置付ける。重要なデータ管理を他国に依存することはセキュリティーの観点から望ましくないとの認識を示しておりデータセンター整備の追い風になっている。