2021.09.03 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<56>ドイツに見るデジタル化と5G化のヒント⑧

 工場では、受発注に伴う購買や販売管理、生産管理を行う基幹業務システムや、生産現場の生産実行管理を行う製造実行システム(MES)、生産現場のフィールド機器を制御するコントローラ(PLC)などがそれぞれの階層ごとに個別に実装されている。

 そのため工場での業務プロセスを変革し全体最適を進める場合、階層間や部門・工程間のシステム連携がうまくいかないケースが多い。階層ごとに導入されているシステムはメーカーが異なっていることが多い上、通信やデータの規格も固有になっている工場が大半だからだ。

OTの課題を解決

 これは工場だけでなく、OT(運用技術)関連の業種では世界共通の課題になっている。この課題解決に正面から取り組んでいるのが、ドイツの「プラットフォーム・インダストリー4.0」だ。その参照モデル「RAMI4.0」は、標準化が進むITの力を借りて、OTの課題を解決するガイドラインとも言える。

 さて、このRAMI4.0は、前回説明した平面(「バリューチェーン」×「階層レベル」)を積み重ねて立方体にしたものだ。立方体の垂直軸は、CPS(サイバー・フィジカル・システム=フィジカル〈実世界〉で得られたデータをサイバー空間〈コンピューターやネットワークの仮想世界〉で分析し、そこから得られた知見で社会課題を解決していくシステム)のサイバー空間における論理的な「レイヤー(層)」だが、少々分かりづらい。そこで、「バリューチェーン」を製造に限定し、製造工場の階層レベルに特化したレイヤーを下から具体的に見ていこう。

製造工場のRAMI4.0

 まず、設備(アセット)層とは、サイバー空間につなぐ必要のあるフィジカル空間のモノやヒトのことを指す。工場では製品やロボットを含むフィールド機器、PLC、MES、電子ファイル、ドキュメント、従業員などだ。

5Gの利用も検討

 次に、統合層ではフィジカル(ここではアナログ)空間からサイバー(ここではデジタル)空間へのデータ収集が規定される。IoTの主要部分だ。

 通信層ではデータをセキュアに情報層のデータベースへ転送したり、逆に情報層からデータ制御したりする通信ネットワークが規定される。現在、産業向け国際標準「OPC-UA」が推奨されており、無線通信に第5世代移動通信規格5Gを利用することも検討されている。

 通信層に5Gを使う利点は多い。例えば、多数のIoTデバイスからデータを収集する場合は5Gの多数同時接続が、超高精細画像データを転送する場合は5Gの超高速が、ロボット制御の場合には5Gの超高信頼・低遅延が威力を発揮するだろう。

 情報層では、サイバー空間におけるデータ共有と人工知能(AI)によるデータ分析モデルが規定される。さらに機能層は、ERPなどビジネスを機能分解した構成要素が規定され、最後のビジネス層は法規制への対応も含めたビジネスモデルが規定される。

 抽象的かつ全網羅的アプローチが得意なドイツ人が世界へ提唱するRAMI4.0は、多少難解ではあるものの、工場などOTビジネス現場のプロセス変革に関わる人たちが、デジタル化と5G化の必要性を理解し、業界ごとに課題を整理する際には非常に役に立つといえる。(つづく)

〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉